06/01/24
■ ブイヨン培地と運動性と撹拌
【質問】
 初めまして。この4月より食肉衛生検査所において微生物の検査をしております。

 ブイヨン培地からブイヨン培地へ接種する際 (例えばサルモネラの検査で, 試料をEEM培地で増菌培養した後, そこから1 mlラパポート培地に接種する際など), 私の職場では運動性のない細菌はピペッティングを行う必要があるが, 運動性のある細菌は (細菌がブイヨン中を自ら運動するので) ピペッティングを行わなくてもよいと教わっていますが, 本当でしょうか??? 私は, 増菌培養したブイヨン培地から1 ml取る際は, ピペッティングもしくはミキサーによって攪拌する必要があると思いますが, これから接種して培養する側のブイヨン培地は運動性にかかわらず攪拌は必要ないのではないかと思うのですが, いかがでしょうか???

【回答】
 簡潔にお答え致します。先ず, ブイヨン培地からブイヨン培地へ接種する際における培地の撹拌の必要性についてですが, 培養時間などが適切であれば, 顆粒状の発育や沈澱発育するレンサ球菌などの一部の菌種を除けば, 一般的に“撹拌は不要”だと思います。ご質問は, 食品からのサルモネラ検出に際してEEM培地で増菌後にラパポートに接種する際のことですね。加熱, 乾燥, 放射線照射および凍結された食品中のサルモネラは, 損傷されているか, 休眠状態にあることが多く, 増殖力が減弱していて, 選択性の強い増菌培地に検査材料を直接接種すると増殖が著しく遅れたり, 増殖不能になることが知られています。そのため, あらかじめ選択性の弱いEEM培地で前増菌培養した後に増菌培養すると, サルモネラの検出率が高まるというものです。確かに, EEM増菌培養中に時々攪拌すると増菌が促進されると言われています(参考文献参照)が, 言うまでもなくグラム陰性桿菌であるサルモネラは運動性の有無に拘わらず, ブイヨン培地では均等混濁発育します。従って, 大幅に培養時間が延長していない限り, ブイヨン培地中に発育増殖しているサルモネラ菌体は, いわゆる「ポアソン分布」をしていると考えて差し支えないと思います。つまり接種に際して, 撹拌目的でピペッティングもしくはミキサー処理の必要性はないと考えます。

〔参考文献〕
厚生省生活衛生局監修: 「食品衛生検査指針」, 日本食品衛生協会, 東京 1990.

(信州大学・川上 由行)


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