07/01/05
07/01/22 07/01/22
■ 「病院機能評価」の受審にあたって
【質問】
 はじめまして。いつも興味深く拝見させて頂いております。私は●●県立病院にて細菌検査を担当している臨床検査技師の■■と申します。当院でも「病院機能評価」の受審がせまっており, 色々準備など大変なのですが, 細菌検査室の感染対策について疑問がいくつかあります。受審の為の参考資料と言うか, “ハウツー”が書いたものをいただいてあります。それによると, 細菌検査を行なう技師は「スリッパは細菌室で履き替える。ガウン (布や不繊布ディスポの袖あり), 帽子, マスク, 手袋を着用して検査する」とあります。私は, 今まで学んだ感染対策の知識から考えると, 手袋は必須だと思いますが, それ以外は疑問に感じます。

(1) スリッパの履き替えは不要 (感染性のあるものを床に落としたら, キレイに拭き取って消毒します)。

(2) 検体を培地に塗布する時は, 安全キャビネットの中(IIa? 内部の空気は外に出ない, 排気はHEPAフィルターを通して細菌室内へ, ただ個室にはなっていない) の中なので手袋のみ (検体の蓋を開けるのは安全キャビネットの中だけです)・・・ビニールエプロンで胸の部分を防御した方がよいのでしょうか???

(3) 培地の観察も手袋だけでよい (コロニーは飛散しないと思うのですが)

(4) 薬剤感受性試験や各種性状試験で, 液体を取り扱う時は, ガウンやビニールエプロンを着用

(5) 悩むのは, 結核菌の判定で培地をフラン器 (一般培養のフラン器とは別になっています) から出して, いつも使用しているテーブルで観察を行なっていることです。小川培地を使用していますが, 今は手袋とビニルエプロン, マスクをつけて判定作業をしていますが, どうしたらよいのでしょう??? 安全キャビネットの中がよいでしょうか??? あと, 一応細菌室は陰圧になっています。

 以上のように考えたのですが, どのようなものなのでしょうか。ぜひ御教授お願いいたします。

また,「スリッパは細菌室で履き替える。ガウン, 帽子, マスク, 手袋を着用して検査する」ということが機能評価の“サーベイヤーの常識”なのでしょうか。もし, 私の意見の方に妥当性であった場合, それをサーベイヤーが知らない, または否定した場合は, やっぱり“泣き寝入り”なのでしょうか??? 波風立てないで, 受審日だけ「スリッパは履き替える・・云々・・」の通りやっとけばいいのかな, とも思ったりしてしまいます。「サーベイヤーはどこで正しい感染対策の知識を得ているのでしょう???」・・・最後のサーベイヤーが云々については, こちらで聞くようなことではないかなとは思いましたが, 現場の本音として書かせていただきました。もしよろしければ, ご指導やご意見をお聞かせいただけたらうれしいです。公に載せられない場合はその部分は削除していただいても結構です。では, この質問がHPに載ることを願っております。

【回答】
 大変難しい質問です。回答するのではなく, 私個人の意見を述べてみたいと思います。

 まず考えて欲しいのは, 何故, 貴方の施設は「病院機能評価」の受審を決意したのでしょうか??? 受審することで, 自施設に足りないこと, 不備なことを知り, 真摯に改善に向けた取り組みをしようとするのが目的なら, 自施設の状態をそのまま示し, 自施設の考えを率直に伝え, サーベイヤーと意見交換する過程で目的は達せられると思います。また単に, 自施設は「病院機能評価」をクリアした, いわば病院の「看板」を得たいというのが目的なら, 一時的にでも, 形を整え, 繕い, 言われるままに, とにかくクリアすることです。この分岐点で貴方の取る道が決まってくると思います。

「スリッパは細菌室で履き替える。ガウン (布や不繊布ディスポの袖あり), 帽子, マスク, 手袋を着用して検査する」という基準についてですが, 私はまったくナンセンスだと考えます。私の施設は・・・(「病院機能評価」もISOも受審する意志はありませんが)・・・細菌室には土足そのまま。ガウンも, 帽子も, マスクも, 手袋もなしです。世界標準, globalizationから逸脱していると考えられます??? 私の留学したアメリカ, アイオワ大学の細菌検査室も土足そのまま。ガウンも, 帽子も, マスクも, 手袋もなしでした。私の検査室は, 私の検査室であり, 私が自己責任をもって管理している検査室です。なにも「病院機能評価」に属する施設ではないのです (ISO 9001を取得していた木村建設も, ISOの看板をあげたまま, 倒産しました)。だから結局, もし貴方の施設が“「病院機能評価」クリア”の看板をあげたいのでしたら, 言われるまま, “巻かれる”ことをお勧めします。

(琉球大学・山根 誠久)
【追加質問】
 こんにちは。早速の返答に感謝申し上げます。病院という組織の中での自分たちのありかたまで考えさせられる, 大変良い機会になりました。今後技師長などにも相談し, 考えていきたいと思います。ありがとうございました。

 それからもう一つ, よろしければお聞きしたいのですが, 先生の検査室ではPPEを何も使用していないとのことですが, それはやはり「自己責任」であるので, 防護するもしないも自由であるというように解釈してよろしいのでしょうか。私も数年前までは, 布製のガウンを着ただけで検査をしていました。特に職業感染もしませんでしたが, ICTの一員となり, 色々な講習会に出ていると, なんだか自分がとても無防備に思えてきていました。病院感染予防はやはり患者様が第一ですから, 健康な職員ばかりの検体検査室にそのまま当てはまるわけではないと思いますが, 先生の意見としては「防護のなしでも大丈夫」ということでしょうか。なんだかしつこくて申し訳ありませんが, よろしければお教えください。

【回答】
 私のスタッフから大いに怒られました。「細菌検査室では感染防御をなにもしていない」は誤解ですと・・・通常の細菌検査では, 手袋も, マスクも, ゴーグルも, キャップもなしで操作しています。ただ, 臨床材料 (検体) を取り扱う (検体の塗抹, 希釈など) の操作時には, マスクと手袋着用で安全キャビネット内で操作しています。また, 抗酸菌検査は別室でマスクと手袋着用で安全キャビネット内ですべての操作を実施しています・・ただ, ドアが開放状態なので, この点については主任技師は大いに反省し, 今回是正するとのことです。

 臨床検査に伴う業務感染への私の基本的な考え方は・・・取り扱う菌種の危険度に加え, 臨床検査室で遭遇する頻度 (例えば過去1年間) を考慮して対応を決定するというものです。“遭遇する頻度を勘案して”という点が, 年がら年中, 研究目的で微生物を取り扱う場合との大きな違いだと考えています。私の病院では, 臨床検体から分離される菌種はいわゆる日和見感染 (平素無害菌で, biosafety level 1) がほとんどすべてを占めます。赤痢菌も, サルモレラ菌も, 久しくお目にかかったことがありません。そのことを臨床検査技師も充分に知っています。分離頻度を勘案すれば, 一般病院の検査室と, 感染症専門病院の検査室では, 業務感染防止への温度差があるのは当たり前の筈です。ちなみに, アメリカ疾病管理センターCDCのガイドラインでもlevel 1の菌種の取り扱い方には特に言及していません。

 病院 (組織) としてのポリシー (考え方と意志決定) が非常に大切で, このポリシーに従うか否かは, 最終的には自己責任を伴った個人レベルの判断になるとも考えます。

(琉球大学・山根 誠久)

【質問者からのお礼】
 再度の回答, ありがとうございました。私自身の考え方に似ていたので, 安心 (???) しました。機能評価受審時は, 技師長と相談して意思統一した上で, サーベイヤーから指摘があった場合は私の言葉で私の考えをお話してみようと思います。ご親切な対応, 大変感謝しております。ありがとうございました。


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