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【質問】
最近このページの存在を知り, 大変貴重な情報をいつもいただいています。感謝いたします。さて,
“クロストリジウム・ディフィシル関連下痢症”に関して教えていただきたいことがございます。
(1) 便にCDトキシンAが証明されれば, CDAD (クロストリジウム・ディフィシル関連下痢症)
と診断してよいか???
以前読んだ文献に, 「CDの健常保菌者からはトキシンAが検出されることはない」との記載があったと記憶しています。トキシン陽性で,
下痢・腹痛などの臨床兆候があればCDADと診断できると思いますが, たとえば発熱だけで他に臨床兆候がなく
(下痢はあっても軽度か, 普通便に粘液を伴う), なおかつ肺炎などの他疾患が否定的かつトキシンA陽性の場合にもCDの治療を行うべきでしょうか???
(2) CDトキシンを調べるべき対象
ある本で, (a) 30日以内の抗生剤の使用歴 (症例により60日) がある, かつ(b)
3日以上続く下痢, または腹痛あるいは発熱の両者を認める症例にのみ, CDトキシンの検出を行うべきとありましたが,
これでよいのでしょうか???
(3) CDの株の違いにより毒性(致死性?)が異なるか???
当院で平成14年に集団発生した際には, 他院から転院してきた全身熱傷,
気管切開の後, 脳梗塞後でねたきりの患者様が発端者と思われました。このときにはフラジール,
バンコマイシンなどを使用したにもかかわらず, CDが陰性化しない, あるいは陰性化しても死亡してしまう
(食事が摂取できずに衰弱していく・・経管栄養をしていても同様) 例が続きました。このことから,
CDの中でも致死性の高いものが存在するのではないかと推察しておりますが, そのような事実はありますか???
(4) CDADの治療について
平成14年の集団発生時 (6例) には主としてメトロニダゾール (6 Tab, 10日)
を使用しておりました。メトロニダゾールでCDが陰性化しない例には, 再度メトロニダゾール
(6 Tab, 14日) を投与しておりました。このうち3例は2回目のメトロニダゾールの投与でCDは陰性化しましたが,
3例ともに治療終了後10日以内くらいで死亡されております。軽症例では抗生剤の使用中止,
ラックBなどの投与で自然に陰性化するのを待つことも考慮すべきかと考えますが,
重症例や超高齢者では薬物投与が必要でないかと考えています。メトロニダゾールは安価で,
VREなどの出現をみないことから有用な薬剤とは思いますが, 小腸で吸収されるといった理由で奏効率はバンコマイシンより劣るように思います。重症例や超高齢者では,
初めからバンコマイシンを使用したほうがいいのでしょうか??? また, 治療の基準はありますでしょうか???
(5) CDADの予防について
医療従事者の手洗いや, 抗生物質の乱用をさけるといったことが基本となると思いますが,
ラックBやビオフェルミンの経管栄養患者あるいは抗生剤使用中患者への投与が有効といった報告はありますか???
以上, ご教授いただければ幸いです。
【回答】
(1) 便にCDトキシンAが証明されれば, CDAD (クロストリジウム・ディフィシル関連下痢症)
と診断してよいか???
現在使用されているトキシンAの検出キットは, 特異性は高いが, 感度が低いことが問題になっています。抗菌薬と関連した症例での便からのトキシンA陽性であれば注意が必要でしょう。白血球増多
(50%), 発熱 (28%), 腹痛 (22%), 潜血 (26%), イレウス (21%) がCDAD (109例)
の臨床症状です。また, C. difficle症の臨床像は, 無症状の定着から下痢
(偽膜性腸炎のあるものとないものがある), 偽膜性腸炎, イレウス, 劇症型腸炎と幅広いことに注意して,
注意深い対応をお願いします。
(2) CDトキシンを調べるべき対象
そのように言い切った記載は誤解を生むかもしれませんね。本症が抗菌薬と密接な関係にあることをうっかり忘れてしまうような1ヶ月前,
あるいはそれ以上前の抗菌薬の服用歴についても問診で確かめて下さい。イレウスの病像で見られるものもありますので,
上記したC. difficle症の臨床像を頭において検査をお願いします。
(3) CDの株の違いにより毒性(致死性?)が異なるか???
その可能性は十分考えられますが, はっきりしたことは言えません。ただ,
トキシンの精製が試みられた時代に, 菌株によってトキシン産生量に違いがあることを聞いていました。また,
毒素産生量に影響を与える種々の因子があることがわかっており, 種々の報告があります。また,
アウトブレイクを起こし易い型があることが分かっています。
近年, C. difficle症の再発例が増加しているのではないか??? 劇症型が増加しているのではないか???と指摘する専門家がいます。また,
無症状の保菌者と発症する人, 再発しやすい人の違いは, トキシンAに対する血清抗体の量の違いによるのではないかと指摘されています。無症状の保菌状態のヒトは,
入院中に血清中のトキシンAに対する抗体が上昇するのですが, 発症あるいは再発する人では抗体の上昇はないとの情報です。受動免疫,
さらにワクチン接種が考えられています。
(4) CDADの治療について
メトロニダゾールは安価で, 欧米でも好んで使用されます。しかし, 再発症例が5人に1人は発生するようです。難治例に困っているのは欧米でも同じです。注意したいのは,
C.
difficileにメトロニダゾール耐性株が出現していることです。長期投与の場合には菌の分離を行い,
その薬剤感受性試験の実施が求められるでしょう。バンコマイシン耐性C. difficile株の報告はまだないのではと思われます。
プロバイオテイクの投与は, C. difficile症の予防効果があるというのは専門家の一致した考えです。試みてもいいでしょう。おそらく治療効果もあるのではと発言する専門家もいます。しかし,
推定に留まっているのは, バンコマイシンやメトロニダゾールとの比較試験成績が世界的に見ても未だにないからです。
(5) CDADの予防について
先に述べたように, Lactobacillus (いくつかの特定の株), Bifidobacterium,
Saccharomyces,
酪酸菌など, プロバイオテイックが有効であると述べている成績はあります。ラックBやビオフェルミンについても症例報告があるかもしれません。
(岐阜大学・渡邉 邦友)
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