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【質問】
○○市食品衛生検査所の●●と申します。
腸炎ビブリオ食中毒防止対策として, 国が平成13年生食用魚介類や生食用かきなどに成分規格基準を設けました。検査方法はアルカリペプトンで増菌後TCBSに塗抹する方法が示されています。従来のMPN3本法では,
TCBSに塗抹する際, 3分割が「標準」のように感じていました。中央法規出版の「目で見る食品衛生検査法」(1989年初版発行)にも図示して紹介されています。しかしながら,
検査の実地経験から, 3分割と1枚塗りではビブリオ属の性質を考え合わせると感度に差があるように思え,
成分規格検査としては統一する必要があるように感じられます。かといって, 成分規格検査は1枚塗りでやりなさいとか,
3分割はダメですといったものもどこにも見受けられません。また, 最近では酵素基質添加培地が加わり,
検査方法は各検査機関任せとなっている気がします。腸炎ビブリオの“MPN法の標準法”を示していただけるとありがたいです。
【回答】
腸炎ビブリオの“MPN法の標準法”は, 2004年版食品衛生検査指針 (微生物編,
厚生労働省監修) に記載されています。MPN法は陽性の試験管数から100 gram当たりの菌数を求めるものであることは質問者も理解していると思います。その上で,
質問者の質問の主旨は「3分割と1枚塗りではビブリオ属の性質を考え合わせると感度に差があるように思える」と「最近では酵素基質添加培地が加わり,
検査方法は各検査機関任せとなっている」だと読み取りました。3分割と1枚塗りでは,
使用するエ_ゼの大きさが違います。通常は, 3分割で10μlのル_プ (内径3 mm)
を使うと, 菌数にもよりますが, 菌を分離するのは至難の技で, 1 μlのル_プ
(内径1 mm) を使うのが妥当です。ここで10倍の差が出てきます。回答者の経験ですと,
3分割か1枚塗りかは, 増菌後のアルカリペプトンの濁り具合で判断します。またこれも一般的ですが,
病原細菌の分離では, 異なった選択培地を併用することにより検出率が高まります。ですから,
TCBSと酵素基質培地を併用することは検査精度を上げると考えられます。また検査結果の精度は,
検査機関というより, 検査員一人一人の微生物検査技術と知識によって大きく異なると考えられます。成分規格検査で統一
(標準化) を切望されているようですが, 検査方法 (サンプル調製から判定まで)
をどの程度詳細に示すかは非常に難しい問題です。最後に, 米国FDAのBAMに記載されている方法を簡単に書きます。カキのような二枚貝とその他の加工魚介類ではサンプル調製法が違います。MPN法での増菌培養後の手技の記載が参考になると思います。「Streak
a 3-mm loopful from the top 1 cm of APW tubes containing the three highest
dilutions of sample showing growth onto TCBS」と書かれています。すなわち,
アルカリペプトン水の上層部1 cmぐらいのところから, 3 mmのル_プを使ってTCBSに画線培養するということです。詳細は[http://www.cfsan.fda.gov]
でBAMのChapter 9 “Vibrio”を参照してください。
(日水製薬・小高 秀正)
【質問者からのお礼】
平素よりお世話になります。○○市食品衛生検査所の●●です。迅速かつ的確な回答ありがとうございました。所内で経験などによる差が出ないよう,
特に成分規格検査には気をつけて細部を検討し, 詰めていきたいと思います。ありがとうございました。
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