06/02/03
■ 中国での大腸菌とブドウ球菌検査
【質問】
 メールにて失礼いたします。貴サイトを拝見して, 本当に勉強になります。

 私は中国にある○○食品有限公司で働いている●●と申します。現在, 品質管理の仕事を現地で任され, 製品の検査もやっておりますが, 検査の素人なもので四苦八苦しております。また, 引継をしてきた先輩方も, 私と同様のようで, 今から自分で調べなければならないのですが, 困っております。どうか御教授いただけないでしょうか。

質問 (1)
 今, 大腸菌群の検査と黄色葡萄球菌の検査をしております。こちらでは, 大腸菌群の検査には:

(1) LST溶液にサンプルを入れ, 気泡の産出状況を見る。(大腸菌群の測定)
(2) 気泡を産出した場合はBGLB溶液に入れ, 気泡の産出状況を見る。(大腸菌群の実証試験)
(3) LST溶液で気泡を産出したものをEC溶液に入れ, 気泡の産出状況を見る。(糞大腸菌の測定)
(4) EC溶液で気泡を産出したものをEMB培地に入れ, シャーレを観察する。(大腸桿菌の測定)
(5) .・・・
とあります。“LST”を検索しても日本のサイトで出てこず, どういう反応があればひっかかるのかはっきりわかりません。気泡が産出されれば, “怪しい”ということでいいのでしょうか。LST (Lauryl Sulfate Tryptose Broth) とは日本語でどんな薬品のことでしょうか。(1) で気泡が出て, (2) で気泡が出なければ陰性ということでいいのでしょうか。

質問 (2)
 葡萄球菌では:
(1) TSB溶液にサンプルを入れ, 反応を見る。
(2) 反応があれば, BP培地に線を引き, 培養する。
(3) ・・・
とあります。TSB (tryptone soy broth) とは日本語でどんな薬品なのでしょうか。

 また“反応があれば”とありますが, どんな反応があればいいのでしょうか。粉末を検査しているときは, 液そのものが濁っていて, 混濁しているかどうかがわかりません。

 今は, 検査のときはLSTとTSBの検査で反応がなければ, 「陰性」として報告していますが, 本来はどこまでしなければいけないものなのでしょうか。近くに先生もおらず困っております。どうかよろしくお願いいたします。御参考までに, 中国当局の定めた試験の流れを, 私自身で翻訳した (素人なもので見当違いな翻訳があるかもしれませんが) ものを下記に書いておきます。

◆大腸菌群の測定

 大腸菌群のMPN値の測定

・全てのサンプルに, 適当な三つの連続した希釈度のサンプルの希釈液を選択し, 希釈度ごとにLST溶液を接種する。
・試験管には1 mlずつ入れる。
・接種した試験管を36℃±1℃, 48時間±2時間培養する。
・試験管の気泡の産出状況を観察する。ダーラム管内に気泡が産出していないかどうかを検査する。24時間と48時間内の気泡を産出したLST溶液の試験管数を記録する。もしLST溶液が等しく気泡を産出しないのであれば, 大腸菌群は陰性であり, 気泡を産出すればさらに実証実験を行う。

 大腸菌群の実証実験
・気泡を産出した試験管を直径3 mmの接種環を使って, BGLB溶液の試験管に移す。
・BGLB溶液を36℃±1℃, 48時間±2時間培養する。
・すべてのBGLB溶液で気泡を産出した管数を記録する。
・結果報告: BGLB溶液の気泡を産出した管数に応じて, MPN表を調べて, 1 gram中におけるサンプル中の大腸菌群のMPN値を報告する。

 糞大腸菌群測定
 ECによる測定(省略)

 大腸桿菌測定
 EMBによる測定(省略)

◆黄色葡萄球菌

固体または半固体食品
・無菌操作で25 gramのサンプルを取り, 225 gramの滅菌生理塩水の入った滅菌した容器の中にいれ, 毎秒8000回転で1〜2分均質にし, 1: 10のサンプル液を作る。

検査最近似値(MPN)測定法
・三つの連続した希釈度を選び, 希釈度ごとにそれぞれ1 mlずつサンプル液を入れ, TSB溶液に接種する。36℃±1℃で48時間培養する。
・3 mmの接種環を使って, 細菌の生育のある各管から1環すくいとり, 表面が乾燥したBP培地に線を引き, 接種する。
・細菌の生育があるシャーレから, 最低一つの黄色葡萄球菌の疑いがある菌落を選び,「肉湯」培地に入れ, 36±1時間で20〜24時間培養する。

【回答】
(1) “LST”は「ラウリル硫酸ナトリウム培地」のことです。この名称で日本のネットを検索してみてください。参考になる情報を得ることが出来ると思います。LSTで気泡 (ガス) の産生を認め, BGLBでガスを認めなければ「陰性」と判断してもよいと思います。ガス産生の判断が難しいときはEMB培地へ画線塗抹 (単一コロニ_を形成させるように塗抹する) して, 培養した後に大腸菌群のコロニ_の有無を確認すれば, 一層確実な成績を出すことが出来ます。

(2) 黄色ブドウ球菌の検査に使用する“TSB”は「トリプトソイブロス」を指します。黄色ブドウ球菌を目的として使用する場合は, 塩化ナトリウム (NaCl) を7.5_10%添加して用いられています (2004食品衛生検査指針 微生物編, 厚生労働省監修)。“反応があれば”とは“増殖を認めた場合は“と理解してください。検体で最初から試験管中の培地に濁りがあり, 培養した後に増殖の有無を判定しにくい場合は, 濁っているすべての試験管からBP (ベア_ド・パ_カ_) 培地へ画線塗抹することを勧めます (試験管1本につきBP培地1枚)。報告についてですが,「LSTとTSBの検査で反応がなければ,「陰性」として報告している」ということですが, 基本的にはそれでオーケーです。LSTでのガスの産生についての判定は間違えることは少ないと思われますが, TSBでの増殖の有無については慎重に観察してください。中国の試験方法は, 質問者の翻訳から概ね米国の試験法に準拠していると考えられます。

(日水製薬・小高 秀正)

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