05/02/01
05/02/02
Clostridium difficileへの消毒薬
【質問】
 微生物検査から離れて6年位経つ検査技師です。かつては一生懸命勉強をしたつもりでしたが, 時の流れと共に多々のことを忘れてしまったり 見解が変わっていたり, ビックリしている次第であります。

 さて本題ですが, C. difficile (以下CD)の院内感染に関することです。自分が微生物検査を担当していた頃は勉強不足だったのかも知れませんが, CDの培養は困難で, 排出したての便をすぐに嫌気ポーターに入れ, 厳密な嫌気条件下で培養をしなくては検出は難しい。ましてや, 院内感染の原因菌だとは思われていなかったように記憶します。最近, 機会があってCDの院内感染に関する相談を受けました。院内感染防止に関する基本的な技術などは, 看護師を始め, 医師も頭では解っていることと思いますが, 現実的な所ではなかなか難しい問題も生まれてきます。そのひとつが“手指の消毒”についてです。

 MRSA, VREなどは市販の消毒薬でも効果はあると思われますが, CDのような有芽胞菌については考えたことがありませんでした。現在当院ではアルコール製剤+塩化ベンザルコニウム製剤か, アルコール製剤+クロルヘキシジン製剤の選択しかありません。どのような菌でも, 院内感染を収束させるには手洗いが基本だと思いますが, 看護師数の制限や, 古い建物の為に, 水道は看護ステーションかトイレにしか付いておらず, 一作業一手洗いは解っていても, 実際問題完璧ではないものと考えられます。せめて消毒だけは・・・と解っていても, CDについての手指消毒薬が思いつきません。何か良い方法はないものでしょうか??? 有芽胞菌に多少なりとも効果のあるポピドンヨードの含まれたアルコール製剤がありますが, 効果のほどはいかがでしょうか??? 最悪はCD検出患者の処置は一番最後に行う位の方法しかないのでしょうか??? 教えてください。

【回答】
 さて本題ですが, C. difficile (以下CD)の院内感染に関することです。

 本題とは関係ありませんが, Clostridium difficile-associated diarrheaをCDADと略すことはありますが, Clostridium difficileをCDと略すことはありません。C. difficileで回答いたします。

 自分が微生物検査を担当していた頃は勉強不足だったのかも知れませんが, CDの培養は困難で, 排出したての便をすぐに嫌気ポーターに入れ, 厳密な嫌気条件下で培養をしなくては検出は難しい。ましてや, 院内感染の原因菌だとは思われていなかったように記憶します。

 C. difficileは, ご指摘のとおり偏性嫌気性菌で, 酸素の存在下では増殖しませんが, 芽胞を形成するので, 糞便検体の採取・輸送は嫌気ポーターでなくても大丈夫です。分離培養は, アルコール処理による芽胞選択をし, 選択培地 (サイクロセリン・セフォキシチン・マニトール培地あるいはサイクロセリン・セフォキシチン・フルクトース培地) を用いて, パウチなどで嫌気培養が可能であれば, まったく難しくありませんので, 是非やってみてください。糞便検体を十分量 (できれば5 g程度以上) 採取してもらうこと, 0.1 ml程度のアルコール糞便混合サンプルを培地に広げることのふたつがコツです。

 最近, 機会があってCDの院内感染に関する相談を受けました。

 複数の症例が下痢/腸炎症状を呈し, “院内感染”が疑われるのでしたら, 微生物検査室, 院内感染対策委員会で話し合い, 情報を臨床サイドに流して, 他に下痢症例が見過ごされていないか呼びかけ, 培養検査を含めた細菌学的検査を積極的に行うよう働きかけることをお勧めします。日本では認識が低いですが, C. difficileによる院内集団発生はまったく珍しくありません。見過ごされているだけです。

 せめて消毒だけは・・・と解っていても, CDについての手指消毒薬が思いつきません。何か良い方法はないものでしょうか??? 有芽胞菌に多少なりとも効果のあるポピドンヨードの含まれたアルコール製剤がありますが, 効果のほどはいかがでしょうか??? 最悪はCD検出患者の処置は一番最後に行う位の方法しかないのでしょうか??? 教えてください。

 手指の消毒に関するご質問ですが, C. difficileは消化管感染症の原因菌ですので, “糞便検体の処理”の際の消毒が問題となります。ご質問の“処置”とは, 排便時の看護あるいは介護と考えてよろしいでしょうか。C. difficile関連下痢症/腸炎症例のオムツ交換などの排泄ケアの際には, “ディスポーザブルの手袋の使用”をお勧めします。ポピドンヨードは, 塩化ベンザルコニウムやクロルヘキシジンと比較すれば芽胞に有効ということになっていますが, 速乾性消毒薬がC. difficileを含む糞便検体で汚染された手指の消毒に著効があるとは考えられません。“ポピドンヨードと流水で手洗い”する方が有効と考えます。

(国立感染研・加藤 はる)


【質問者からのお礼】
 回答有難うございました。今回のことを機に, 院内感染対策委員会が動くことになったようです。自分は現在細菌検査とは関わっていませんので, お任せしたいと思います。自分が質問を受けたNST委員会ではいただいた回答を参考に発言しておきたいと思います。お忙しいなか, 有難うございました。


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