06/05/02
Clostridium difficileトキシンの偽陽性
【質問】
 お忙しいところすいません。●●県の医師です。

 直腸癌術後の74歳の女性の方です。手術日を含め3日間の抗生剤投与を行い経過を見ていたところ, 術後6日目に下痢と発熱がありました。1ヶ月前に病棟で偽膜性腸炎患者が2人発生したこともあり, CDトキシン (A) を迅速で検査したところ「陽性」でした。至急, 大腸カメラをしましたが, “偽膜はまったく認めず”正常でした。症状としては合致している様に思いますが, 内視鏡所見とは合いません。(1) 偽陽性になる確率と, (2) 発症して偽膜が出来るまでのタイムラグ (偽膜形成に必要な時間) などについて知るところがありましたら教えていただきたく存じます。

また, 今回の場合, 偽膜性腸炎と診断していいでしょうか???

【回答】
 偽膜性大腸炎は“病理学的診断名”で, 内視鏡や剖検などで消化管に偽膜形成が認められた際に診断されます。偽膜性大腸炎では, ほぼ100%の症例でClostridium difficileが分離されるために, 細菌学的検査を行わなくても, 偽膜形成が認められた場合は“C. difficile関連腸炎”であるとの診断が可能です。反対に偽膜形成が認められないC. difficile関連下痢症/腸炎は少なくありません。言い換えますと, 偽膜性大腸炎はC. difficile関連下痢症/腸炎のなかで重篤なタイプであるといえます。

 質問の74歳の症例では, 術後感染予防の抗菌薬開始後6日目に下痢, 発熱を認め, 糞便検体中のC. difficile のtoxin A陽性であったとのことですので, 偽膜形成は認められなかったため, 偽膜性大腸炎とは診断されませんが, C. difficile関連下痢症/腸炎と診断できるかと存じます。

 検査についてですが, 現在, 日本では糞便検体中toxin A検出には2種類の診断キットが使用できます。本検査は, 菌の分離培養法や細胞培養法によるtoxin B検出と比較するとやや感度に劣るものの, 特異度は比較的高いと言われていますが,“偽陽性”例は (キットの種類や症例によっても異なるとは思いますが) それほど珍しいことではありません。質問のなかで, 1ヶ月内に続けて3症例にC. difficile関連下痢症/腸炎症例が認められたことから“院内感染”が疑われます。臨床検査室で可能であれば, toxin A検出に加えて, この病棟に入院した下痢症例だけでもC. difficileの分離培養検査を併用してはどうでしょうか。糞便中toxin A検出の偽陽性例ではなく, “偽陰性例”が見過ごされていることのほうが心配です。

(国立感染所・加藤 はる)


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