06/04/12
■ 大腸菌等の抗血清の準備
【質問】
 私は, 400床程度の一般病院で働いている検査技師です。

病原性大腸菌や腸炎ビブリオ, サルモネラ, 赤痢などの免疫血清は様々な種類がありますが, “一般病院の検査室としてどこまで持っていればよい”のでしょうか??? 特に病原性大腸菌の免疫血清は様々な種類があり, かなり高価なので・・・一般病院の検査室として, これだけは持っていなければいけないというものはあるのでしょうか??? 恥ずかしい質問ではありますが, よろしくお願いいたします。

【回答】
 「一般病院の検査室として, これだけは持っていなければいけない免疫血清」との質問ですが, 免疫血清の製造元の立場からお答えするのは非常に難しい内容です。ひとつの提案として, 回答したいと思います。

(1) 赤痢菌免疫血清・・・患者発生率はとても低いですが,「感染症法」の二類に分類されていること, 亜群の決定は管轄の都道府県の衛生研究所などへ依頼することが可能であるなどを考慮すると, 多価血清8種類は必要かと思います。ただし輸入感染症として, 市販血清に凝集しない株もあります。

(2) コレラ菌免疫血清・・・赤痢と同じく患者発生は稀ですが,「感染症法」の二類に分類されています。全種類そろえたとしても, 混合1本と、単味2本だけですので, 準備することを勧めます。

(3) サルモネラ免疫血清・・・同じく「感染症法」の二類に分類されている「腸チフス」と「パラチフスA」がありますので, この2つの同定だけでよいと判断するのであれば, O群血清のO2とO9, H血清のaとd, Vi血清の合計5本が必要です。臨床医がさらにサルモネラの菌名まで求めている場合には, O群血清17本, H血清17本, H因子血清21本, さらに2相まで決定する必要がありますので, 相誘導血清も必要となります。

(4) 病原大腸菌免疫血清・・・この血清は, 細菌検査室のある医療機関ではほぼ例外なく準備されていると思います。腸管出血性大腸菌 (EHEC) の該当型の血清のみ準備しておけばよいと言った意見が稀にありますが, 血清型のみではEHECの決定は出来ず, ベロ毒素産生試験が必要です。常備すべき血清としては, O混合血清の9本とO単味血清の50本を勧めます。ベロ毒素産生の有無と血清型 (Oだけでも) を併記して報告するのが理想的です。

 いずれにしても, 病院が置かれている状況, 例えば感染症専門医の有無や呼吸器疾患の全体の割合, または下痢症患者の検査依頼が全体を見て多いか否か, 臨床医の要望などによって, 必要な抗血清の種類は異なってくるかと思われます。近隣の同規模の医療機関の情報, 何よりも感染症に関して流行状況をリアルタイムに把握しておくことが最も重要なことではないかと考えています。

(デンカ生研・星 綾香)

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