■ 大学キャンパスの池で分離されたグラム陰性菌 | |
【質問】
大学のグループ実験で, キャンパス内で菌のサンプルを採取して試験管に入っているLB培地, BGLB培地で培養した後, ダラーム管で気泡が確認できたので, グラム陰性菌が存在しているのだと思い, 寒天培地を用いた分離培養をしました。BGLB培地のほうで生えた菌がいたので, グラム陰性菌がいるという確信を持つためにグラム染色をしました。やはりグラム陰性菌がいたので, 次にグラム陰性菌 (大腸菌群) だと思われるものを取り出し, 日水のIDテストEB-20を用いて大腸菌群の同定を行いました。IDテスト EB-20で大腸菌のコードは出たのですが, 文献が少なく, それに当てはまるコードを見つけることができず, “クレブシエラ・ニューモニエ”と“エンセロバクター・エロゲネス”のどちらかで大腸菌の特定ができません。どうしたらいいでしょうか??? これらを採集した場所はキャンパス内の池で, 6月の終わりくらいに採集しました。お忙しい所申し訳ありませんが, 回答の方をよろしくお願いします。 【回答】
まず, 実験の目的が“大腸菌群を分離する”ことか“一般細菌を分離し, 菌種を同定する”ことか, 質問の内容からは読みとれません。LB培地やBGLB培地は, 食品検体や上水から大腸菌 (群) を増菌培養する目的で使用します。池の水のように高度に細菌の汚染が予想される検体では, 直接デソキシコレート寒天培地に塗抹培養する方法が推奨されます。 次に, 寒天培地に発育した菌は1種類とは限りませんので, 菌を同定する際にはデソキシコレート寒天培地に発育したコロニーを観察し, さらに個々の菌コロニーを純培養する必要があります。純培養する場合, コロニーの色調, 大きさに注意し, 異なる形態や性状を示すコロニーは別個の菌種と考えます。また純培養は, 同定キットで検査することを目的とする場合には, 普通寒天培地やSCD寒天培地などの非選択寒天培地を使用します。 同定試験についてですが, 日水製薬のIDテスト・EB-20は“ブドウ糖発酵性グラム陰性桿菌”の同定に使用します。またコードプロファイルの検索には, オキシダーゼテストの結果が必要ですので, あらかじめ, (1) グラム陰性菌 (グラム染色), ブドウ糖発酵性 (TSI寒天培地), オキシダーゼ (チトクロームオキシダーゼテスト) を実施してください。ブドウ糖発酵性グラム陰性桿菌で, オキシダーゼが「陰性」の場合, 大腸菌 (群) の可能性があります。 「EB-20で大腸菌のコードは出たのですが, 文献が少なく, それに当てはまるコードを見つけることができず, “クレブシエラ・ニューモニエ”と“エンセロバクター・エロゲネス”のどちらかで大腸菌の特定ができません」の内容が正確には理解できませんが, 得られたコードに対して, “複数菌種名の表示があり, どちらかに特定できなかった”と解釈しました。コードが記載していないため, 詳細は分かりませんが,“クレブシエラ・ニューモニエ (Klebsiella pneumoniae)”と“エンセロバクター・エロゲネス (Enterobacter aerogenes)”の鑑別では“運動性の有無”を確認します。Klebsiella属の運動性は「陰性」, Enterobacter属は「陽性です」。なお“クレブシエラ・ニューモニエ (Klebsiella pneumoniae)”も“エンセロバクター・エロゲネス (Enterobacter aerogenes)”もともに「大腸菌 (Escherichia coli)」ではなく“大腸菌群 (Coliforms)”です。大腸菌群は,「グラム陰性の無芽胞桿菌で, 乳糖を分解して酸とガスを産生するすべての好気性または通性嫌気性菌」を意味し, 食品衛生細菌学の領域で使用されます。細菌学の分類上の腸内細菌科 (Enterobacteriaceae) とは区別されますが, Escherichia属, Citrobacter属, Klebsiella属, Enterobacter属などが大腸菌群に該当します。試験方法や菌の分類については下記の参考文献を参照ください。 [参考文献]
(日水製薬・三品 正俊) |