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【質問】
食品会社で微生物試験を担当している者です。「食品衛生検査指針・微生物編2004」の137頁に記載されておりますデソキシコレートを用いた大腸菌群検査について質問いたします。
これによりますと, 検体にデソキシコレートを混釈・固化後, さらに同培地を重層するようになっております。重層する理由は,
“大腸菌群集落は培地表面より深部において一層定型的集落を形成するから”とあります。ところが,
E. coliを用いて重層の有無による集落形態の差異を調べてみたところ,
培地表面の集落においてもその形態は深部集落とほとんど変わらず (少し大きいくらい),
色にも差は見られませんでした。これはただ単に, 私が試験に用いたE. coliがたまたまあまり差の出ないものであり,
その他の大腸菌群では集落形態に大きな差が見られることもあるということなのでしょうか???
もし他の大腸菌群においてもあまり差がないようならば, 重層を止めようと検討しているところなのですが・・・。ご教授の程,
よろしくお願いいたします。
【回答】
デソキシコレート寒天培地の重層は, 拡散コロニーの抑制や, 大腸菌群以外の細菌をデソキシコ_ル酸で抑制する
(培地表面に出現した大腸菌群以外の細菌でも細胞が分裂増殖するに従い, 培地中のデソキシコレ_ト酸の影響を直接受け難くなり,
通常増殖抑制されるべき菌種が増殖する可能性がある) ために行われます。質問者は,
E. coliで確認して重層と非重層において集落形態の差異を認めないとありますが,
ご存知のようにE. coliは大腸菌群の中の1菌種です。回答者の経験でもE.
coliでは大差ないことは同意します。しかし, KlebsiellaやEnterobacterなどの菌種では,
培地表面のコロニーと培地中のコロニーではまったく違います。これらの菌種では,
培地表面でムコイド状 (べっとり) のコロニーを形成することが多く, コロニーとコロニーが融合して正確な菌数
(大腸菌群数) を数えることができなくなります。
【追加質問】
ご回答ありがとうございます。回答を拝見いたしまして, 再び2点ほど疑問が生じました。よろしければ,
再度ご回答をお願いします。
拡散コロニーに関しては納得いたしました。デソキシコール酸で他の細菌を抑制していることに関して少し疑問があります。以前に示しました検査指針において,
「重層培地は, 同培地がない場合は標準寒天培地を用いてもよい」とのくだりがあります。この場合はもちろん何の抑制作用もないばかりか,
逆にデソキシコレートに対してはマイナーな細菌も増殖してしまいそうな気もするのですが,
如何でしょうか???
デソキシコレート培地は主に定量分析に用いますが, 定性的に使用する際には正確な菌数を知る必要はありません。この場合なら,
重層は必要ないとの解釈ができますでしょうか???
お忙しいところ幾度も恐縮ですが, 何卒よろしくお願いいたします。
【回答】
質問者の質問の真意が理解できません。デソキシコレ_ト培地の重層の煩雑さやコスト削減のため,
“重層をしたくない”というように推察できます。質問者の最初の質問に対しての“一般的な回答”であることをよく理解してください。質問者が会社組織でどのような立場で,
どのような検体 (食品) を検査しているのか, 大腸菌群検査の一連の検査工程なども含め,
不明点が多いため, 一般的な回答をしています。「重層培地は, 同培地がない場合は標準寒天培地を用いてもよい」とは,
その後の文章にあるように「大腸菌群集落は寒天培地表面よりも培地深部において一層定型的集落を形成するからである」と担当者の小久保弥太郎先生
(社団法人 日本食品衛生協会) は書かれています。回答者の理解するところでは,
重層は一般的に5 ml位の培地を流します。重層後, 下層のデスオキシコレ_ト培地の培地成分,
特にデスオキシコ_ル酸が重層した培地の方へ移行し, 純粋な非選択培地ではなくなると思います。また,
小久保先生は実務経験も長く, 現場のことをよく知っておられますので, デソキシコレ_ト培地の重層を忘れ,
用意したデソキシコレ_ト培地を最初の混釈ですべて使い切った場合のことを勘案して上記のように書かれていると察します。
またデソキシコレ_ト培地を定性的にお使いとのことですが, 大腸菌群検査において一般的に使われている定性培地はEMB寒天培地です。一般的にはデソキシコレ_ト培地は“大腸菌群数を測定
(定量) する”ための培地であることを理解してください。
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