04/11/16
■ Flavobacterium odoratumと肝膿瘍
【質問】
 ○×病院の外科医師です。最近, 54歳, 男性, 小学校の校長先生が肝膿瘍を発症し, エコー下ドレナージがうまくいかず, 手術となりました。手術時に採取した膿からFlavobacterium odoratumなる菌が検出され, 文献を調べましたが, 黄色集落を形成するオキシターゼ陽性の非発酵グラム陰性桿菌で, 自然界では土中, 水中に広く分布し, 病院内では浸潤した場所, 加湿器の水中などに生息するとのことですが, 果たしてこれが肝膿瘍の起因菌なのか, またその感染経路はいかなるものかまったく不明で, この菌種による肝膿瘍の文献は見当たりませんでいた。ただ, 微生物学は分類もむずかしいと聞いており, 別の菌名で調べれば, 肝膿瘍をごく普通に惹起する菌種なのかもしれません。Flavobacterium meningosepticum が小児の髄膜炎の起因菌として知られており, またこのFlavobacterium odoratumが心外膜炎の起因菌となったとの報告もありましたが, 肝膿瘍の起因菌として考えて良いでしょうか???

 付け加えますとこの校長先生はプール開きの時期, どろどろになったプールを一人で率先して清掃したそうです。また発症日は8月1日でした。とりとめのない文章になり申し訳ありません。何卒, ご回答のほど宜しくお願いいたします。

【回答】

 Flavobacreium odoratum は現在, Myloides odoratusまたはMyloides odoratimimusと学名が変更されていますが,ご質問の通り新菌種名で検索しましても肝膿瘍からの分離報告はないようです。Flavobacreium 属をはじめとする弱毒ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌の多くは留置カテーテル関連感染や火傷,切断部位感染など, 局所的に免疫能が低下した部位への定着または感染が多いと思われます。当院では尿検体,特にカテーテル尿からの分離例が多く認められます。今回の症例はドレナージがうまくいかず,手術に至ったとのことですが,ドレーン・チューブが留置されていない状況で, 肝膿瘍から分離されたのであれば極めて稀な症例であると思います。またF. odoratum はβ-ラクタマーゼを産生し,カルバペネム系の薬剤などにも自然耐性を示すことから,抗菌薬治療経過中に菌交代現象として出現することもあります。もし抗菌薬を使用中であったのであれば,共存する他の病原菌が消失してF. odoratum だけが残ったという可能性も考えられます。ただ起炎性については, 分離された菌量や炎症細胞との関連をみて, 慎重に判断しなければならないと思います。他の病原微生物が分離されず,検体のグラム染色標本中に分離菌と同じ形態のグラム陰性桿菌の貪食が認められるならば, 起炎菌としての可能性が高くなると思いますが,貪食像がなくても, 同様の菌体が多数の白血球が存在する部位に認められることが重要だと思います。

 感染経路につきましては,菌血症を伴う蜂窩織炎の文献が2例ほどありますので,傷口から侵入して血行性に伝播する可能性もあるかと思います。ご質問にあります“どろどろになったプールの清掃”で大量に暴露され,傷口などから侵入したとも考えられますが,その場合, なぜ弱毒のF. odoratum だけがという疑問は残ります。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)

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