05/08/26
05/09/08
■ 婦人科検体からSalmonella arizona
【質問】
 はじめまして。私は○×県立中央病院細菌検査室に勤務しております。いつも「質問箱」を拝見させていただいております。

先日, 婦人科の40歳代の患者の膣分泌物からSalmonella sp.が検出されました。TSI, SIM, VP, LIM, SCではSalmonella と思われるのですが, “抗血清では凝集がありません”。WalkawayとクリスタルGPで同定すると, Salmonella arizonaとなりました。ONPGは陽性で, “土のような匂い”があります。この菌はSalmonella arizonaと考えてよろしいでしょうか???。また, Salmonella arizonaの検出頻度はどれくらいでしょうか。よろしくお願いします。

【回答】
 Salmonella enterica subsp. Arizonae (Kauffmannの亜属 IIIa)は,主にヘビやトカゲなどの爬虫類,特に“ガラガラヘビ”に多く分布すると言われています。本菌はヒトに腸炎を起こすSalmonella enterica subsp. entericaの菌群とは異なり,免疫能の低下した患者や乳幼児において菌血症などの全身感染を起こすことが多く,本邦における報告は稀ですが,欧米においては爬虫類との接触やヘビ肉の摂取,あるいはガラガラヘビの乾燥製品の摂取後に発症したという報告が複数認められます。ご質問の症例は40歳代女性の膣分泌物からの分離ということでありますが,爬虫類などとの接触歴はなかったのでしょうか。無症候性に腸管内に存在していたSalmonella arizonae が膣内に侵入した可能性も考えられます。国内では長期間ステロイド剤の投与を受けていた60歳代女性の敗血症を伴う化膿性椎体炎からの分離が報告されていますが,海外渡航歴や爬虫類の飼育歴はなく,感染経路は不明であったとされています。近年, ペットして爬虫類を飼育する人が増加し,また輸入食品などの流通も増大してきているため,爬虫類との直接的な接触歴なくとも感染する可能性はあるものと推測されます。

 自動機器などによる同定で,時折,大腸菌との鑑別が必要になることがありますが,“TSI, SIM, VP, LIM, SCではサルモネラと思われる”と記載されていますので,まず大腸菌は否定されると思います。加えてサルモネラの抗血清に凝集せず,さらに二つの方法 (Walkaway,クリスタル) で同定されたということから判断すれば,分離菌はS. arizonae と考えてよいのではないかと思います。同定確率が高ければ問題はないと思います (クリスタルGPはグラム陽性菌用と思います。クリスタルE/NFなどではないでしょうか)。S. arizonae の検出頻度については,先にも述べましたように本邦での報告は非常に少ないと思います。免疫能が正常であれば無症状で経過するか,発症しても軽度であると推測されますので,論文や統計上の数字としては表れにくいのではないかと思われます。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


【質問者からのお礼】
 先日, Salmonella arizonaeについて質問させていただきました。丁寧なお返事をいただきありがとうございました。


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