05/01/04
05/01/07
■ ひとつの標準菌株が複数のATCC番号をもつ!!??
【質問】
 いつも楽しみに質問箱を拝見しています。○×製薬・品質管理部で微生物試験を担当しております。教えていただきたいのですが・・・

 ATCC (American Type Culture Collection) などの標準菌供給機関で, 同じ菌で多くのATCC No. をもつ菌株があります。同じ標準菌株で, 複数のATCC No.のものがある場合, その違いはどうのような点にあるのでしょうか??? 生化学的性状やDNA配列が異なるものなのでしょうか??? それとも分離された部位, 分離した日時, 分与先などの違いだけなのでしょうか??? 例えば: 

ATCC 9027はATCCのカタログでは
 Organism: Pseudomonas aeruginosa (Schroeter) Migula

ATCC 27853でも
 Organism: Pseudomonas aeruginosa (Schroeter) Migula

という記載があり, この場合は同じ菌株と判断して問題ないのでしょうか???

 また, 日本薬局方で菌株について, 例えば「緑膿菌であればATCC 9027, NCIB 8628, IFO13275“もしくはこれらと同等の菌株”」という記載がありますが, “同等の菌株”といった場合にどのように考えればよろしいのでしょうか???

 唐突な質問で大変申し訳ありませんが, お教え下さい。

【回答】
 標準株, standard strain(reference strain)という表現は, 同定の標準株あるいは薬剤感受性検査の精度管理用標準株というように用います。ATCC 9027とATCC 27853は“菌株の由来が異なる”標準株であり, Pseudomonas aeruginosaのATCCナンバーは50種類以上あります。ATCCなどの微生物系統保存機関において菌株ナンバーが違えば菌株の由来が異なっており, 遺伝子レベルのわずかな違いから生物学的性状の大きな違いまで, 同一種の範囲において異なる菌株であると考えられます。分類学上の基準株, type strainはその性状が明らかになっていますが, 標準株は微生物系統保存機関が発行する菌株のデータシートを参照するか, 同一ナンバーの菌株成績を文献的に調べる必要があります。ATCCの場合は国内代理店 (住商ファーマなど) あるいは細菌検査自動化機器販売会社に問い合わせると確認できる可能性があります。なお, ATCCから入手できる基準株, type strainはATCC 10145(U)のみです。微生物系統保存機関としてはATCCが最も規模が大きく利用しやすいものの, 多様な微生物株をすべて持っているような機関は存在しません。同様の機関は全世界に500以上あり, 取り扱う微生物種や専門性は多岐にわたっています。

 日本薬局方の“同等の菌株”というのは難問です。ATCC 9027の場合, 同一株で保存機関の異なるものが9ナンバーあります(BUCSAV 278; CCM 1961; CIP 82.118; DSM 1128; IAM 10374; IFO 13275; NCIMB 8626; NRRL B-800; R. Hugh 813)。これらはATCC 9027株に記載されている菌株由来機関のナンバーであり, 厳密に言えば, これらが“同等の菌株”ということになります。なお, 保存機関名IFOは財団法人発酵研究所の菌株略称ですが, 現在は製品評価基盤機構が管理を引継ぎNBRCナンバーに変わっています。

〔参考〕
独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門遺伝資源保存課 
http://www.nbrc.nite.go.jp/gene.html

(京都大学・田中 美智男)
【質問者からのお礼】
 丁寧に回答していただき, 有難うございました。いろいろ参考になりました。これからも宜しくお願いします。

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