06/08/16
■ 下痢原性大腸菌の検査について
【質問】
 下痢原性大腸菌についてご質問いたします。私の勤務するクリニックでは, 近隣企業の委託を受け, 厨房職員の便検査を実施しています。これまでは, 赤痢, サルモネラ, 寄生虫, 潜血の検査を行ってきましたが, 最近になり, 企業側が“O157の検査”も実施するように保健所から指導を受けたとの連絡を受けました。そのため, こちらではO157のみではなく, 下痢原性大腸菌を調べるようにしたところ, “O1”が検出されることが多く, その度に“ベロ毒素の有無”を調べるか否か, 検査センターから確認がきます。現時点では全例ベロ毒素を調べており, すべて「陰性」の結果が得られていますが, “O1が検出された場合, すべてにベロ毒素を調べる必要があるのでしょうか”。

 腸管出血性大腸菌に区分される型は限られているかと思いますが, O1以外にも, 下痢原性大腸菌が検出された場合, すべてにベロ毒素を調べる必要はありますか??? また, 下痢原性大腸菌が検出された場合 (検出された型やベロ毒素産出の有無によると思いますが), 企業あるいは厨房職員にはどのような指導を行うべきでしょうか。ご教授いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

【回答】
 検診での便検査で, 大腸菌O1が出てどうしようということはよく耳にします。確かに病原大腸菌のO1は過去にベロ毒素産生の「実績」がある血清型として,「腸管出血性大腸菌 (EHEC)」に分類されています。しかしながら, わが国での最近の発生状況を見てみると, 2004年〜2005年の報告では, 2004年にVT1産生で「O1: H20」が1例あるのみです。2005年には報告がありません。2005年に腸管出血性大腸菌として報告された1,574例のうち, 1,076例 (約68%) がO157であり, 次いでO26, O111の順となっています (病原微生物検出情報 vol. 27 No.6より)。つまり, O1による「腸管出血性大腸菌感染症」は発生頻度がとても低いということになります。また同じ報告によると, O157, O26, O111以外でのEHECの報告が増えているとありますので, 有症者の場合は血清型に限らず, まずベロ毒素産生検査を優先させるべきであると考えます。

 話を元に戻します。結論としては, 検診においてO1が検出されたとしても, すべての例に対しベロ毒素産生検査の実施は必要ないと考えています。理由としては, 上記のとおり発生頻度が大変低いことと, 無症状者から毒素が検出されることはまずないと考えられるからです。ただし, O157・O26・O111の3つは, 発生頻度をふまえて, 無症状者でも念のためベロ毒素産生検査を実施することは無駄ではないと思います。

 では, 病原性大腸菌といわれる血清型が検出された場合, 企業または厨房職員に対してどのような衛生指導をしていくべきかについてですが, 無症状者の場合については,「病原性大腸菌」だからといって, 特別なことは特にないと思います。飲食業に携わる方々の基本的な衛生指導, 手洗い・うがい・消毒などの徹底と, 例えば食中毒に関する従業員教育などがあれば, 衛生に関する意識も向上し, 結果的に食中毒の発生などを回避することになるのではないでしょうか。万が一, 先に述べたO157・O26・O111が分離同定され, さらに無症状者にも関わらずベロ毒素が陽性となったような場合には, 感染症法に従い, 速やかに届け出た上で保健所などの指示を受けるべきと思います (平成15年11月施行の感染症法では, 無症状者であっても, 当該菌が分離され, かつその菌からベロ毒素が産生, もしくは遺伝子の確認, または便中からのベロ毒素の産生が確認できた場合には, 所定の方法により速やかに報告することになっています)。

〔参考サイト〕
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_06/k02_06.html
(感染症情報センターホームページ「感染症の話」ご参照ください)

(デンカ生研・星 綾香)


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