04/09/09
■ 偽膜性腸炎とクレゾール消毒について
【質問】
 病院併設の老健へ勤務しています。この数ヶ月, “偽膜性腸炎がはやっている”と聞き, 調べています。当施設, 病院では排泄時におしりを拭くタオルがあります。このタオルは使用後水洗いし, クレゾール (濃度は決められたものを毎日バケツに作っています) に一定時間浸けて, 洗濯機 (そのタオル専用) での洗濯後, 再度使用するようになっています。「原因は, そのクレゾールの濃度が適当に作っているからだろう」と感染対策委員会では話しているそうです。それだけが原因かと疑問に思い, メールしました。クレゾールの偽膜性腸炎での効果, どういった看護, 介護が必要か教えて下さい。クレゾールの使用方法 (濃度や時間) に問題ありますよね??? よろしくお願いします。

【回答】
 偽膜性腸炎や抗菌薬関連下痢症など, いわゆるC. difficile症の原因は, Clostridium difficileという有芽胞の嫌気性菌です。C. difficile症になり, C. difficileを排菌している人のお尻を拭いたタオルは当然, この菌の芽胞で汚染されています。まず, 芽胞で汚染されたタオルを水洗いすることで芽胞をかなり少なくすることができていたと考えられます。しかし, アウトブレイクがおきた後のような場合には, つまり複数の大量に排菌している人に使用したタオルが多く含まれていた場合には, アウトブレイクの見られなかった時と比較して汚染が強くなっていることが予想されます。通常の水洗いでは不十分な状態なのでしょう。

ここでポイント!
 偽膜性腸炎の診断をしっかりして, C. difficileが原因の下痢をしている人とそうでない人をはっき区別することが重要です。C. difficileを大量排菌している人の排便後のお尻を拭いたタオルは廃棄するようにするか, あるいはディスポのタオルを使うかした方がよいでしょう。どうしても再利用したいならば, 少なくとも下痢していない人に使ったものとは別個に処理する必要があるでしょう。さて, タオルの水洗いの後のクレゾールへの浸漬は, C. difficileの芽胞に対して有効ではないのではとの質問ですね。はい, 現在使用しているクレゾールではC. diffficileなどの芽胞を殺菌することは期待できません。殺芽胞作用を示す消毒薬を使用する消毒を“高レベルの消毒”と言いますが, クレゾールを使用した消毒は残念ながら“中レベルの消毒”ですので, たとえ濃度, 作用時間, 温度の三要素を考慮したとしても, 充分な効果は期待できないでしょう。

ここでポイント!
 C. difficileの芽胞の減少を狙ってよく使用される消毒薬は2%グルタールアルデヒドあるいは1,600 ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液です。0.2%過酢酸も有効です。これらの消毒薬をタオルの消毒に使用できるかどうか??? あなたの病院で考えてみて下さい。洗濯器の耐久性の問題などもありますからね。また, 前に述べたように, 新しいタオルとは異なり, 頻回の使用によりタオルの芽胞汚染の程度が高くなってしまっている可能性がありますので, この際一度, すべてのタオルを高圧滅菌処理することを考えてよいのではないでしょうか。この物理的方法は, 消毒薬を用いた化学的方法よりも確実です。消毒薬の患者さんの皮膚への影響も考えなくてよい利点もあります。タオルのいたみの問題は避けられませんが・・・

最後に一言!
 C. difficile症の人とその周りにいる人の看護の際に注意しなければならない点は, この病気はC. difficileの芽胞を口にした時に起こる病気であることと, 抗菌薬や抗癌剤を服用している人に起こる病気であることを忘れないことです。これらの薬剤を服用している下痢を発症していない人 (リスクの高い人) とその人のまわりの環境のC. difficleの芽胞の汚染の度合いを低くしてあげることが大事です。

(岐阜大学・渡邉 邦友)

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