■ 偽膜性腸炎について | |
【質問】
●●病院小児科の○○と申します。質問は以下のとおりです。宜しくお願いします。 突然のメールお許し下さい。小児科の医師をしていますが, 4歳の生来健康なお子様の“偽膜性腸炎”を経験しました。入院時から点状出血混じりの便がみられ, 便の培養では大腸菌群は発育せず, 緑膿菌が2+でしたが, 症状は4日目に改善しました。肺炎と気管支喘息で入院し, 第2世代セファム系の抗生剤を使用していたところ, 突然膿粘液〜膿粘血便を認め, 白血球30,000, CRP 12でした。偽膜性腸炎を疑ってCDチェックをしましたが「陰性」でした。緑膿菌がセファム系抗生剤に耐性だったために菌交代現象が進み, 腸粘膜から侵入し菌血症を起こしているのではないかということでカルバペネム系の抗生剤を使用したところ炎症所見は改善しましたが, 便の性状にはまったく変化がありませんでした。結局, 便培養から緑膿菌“わずか”, 血液培養は“no growth”でした。発症時に嫌気性培養は行なっていません (内視鏡検査前に行ないましたが, 「陰性」でした。明らかに採取方法に問題がありましたが)。いまから考えれば, パンスポリンの使用でClostridium difficileに加えそれ以外の嫌気性菌が腸管内に増殖しており, カルベニンに感受性のある嫌気性菌を叩いたことで炎症反応が落ち着いたのかと思っているのですが・・・教えていただきたいのは: (1) “偽膜性腸炎”の時, Clostridium difficile以外の嫌気性菌の腸管内増殖もあるのか???
【回答】
質問 (1) の意図がよく分からないのですが, そもそも健常人の消化管細菌叢はBacteroides属などを中心とした偏性嫌気性菌により構成されています。抗嫌気性菌作用のある抗菌薬がC. difficile関連下痢症/腸炎を起こしやすいと言われていることと矛盾しないと思います。C. difficile関連下痢症/腸炎は, 確かに腸管フローラの撹乱により誘導されますが, 糞便の直接塗抹などをみても, C. difficileだけになってしまうという訳ではありません。反対に, 抗菌薬関連下痢症の原因はC. difficileだけではありません。現在のところ, 原因菌として明確に認められているのはC. difficileだけですが, エンテロトキシン産生性Clostridium perfringensや, Klebsiella oxytoca, Stapylococcus aureusなども原因となるかもしれないと言われていますが, まだよく分かっていません。 質問 (2) の意図もよく分からないのですが, C. difficileがカルバペネム感性であろうと耐性であろうとC. difficile関連腸炎の治療に使用することはありません。ただし, 一定の薬剤を病院で乱用すると, その薬剤に耐性のC. difficile菌株が院内で選択されて流行することは考えられます。論文報告を調べてみますと, C. difficileはイミペネムに対しては感性株も耐性株もあるようですが, イギリスで頻繁に認められるタイプの菌株はイミペネム耐性であったという報告がありました。 ついでですが, 「CDチェック」は, 毒素を検出している訳ではないので, 特異度が低く, かつ感度もあまりよくないので, せっかく検査されるのでしたら毒素検出を行うほうがよいでしょう。培養検査用の検体は, 嫌気性菌用の輸送容器でなくても大丈夫です。重要なのは十分量 (5 gram程度) の検体を採取し, 細菌検査室にC. difficileの培養をして欲しい旨を伝えることです。 (国立感染研・加藤 はる) 【質問者からのお礼】
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