05/02/10
■ グラム染色が紫色に染まる
【質問】
 グラム染色を行うときに, 赤にも青にも染まらずに, “紫色”になったりするのはなぜなのでしょうか???

【回答】
 まず, 質問者がどんな方法でグラム染色を実施しているのか (グラム染色と言っても, 数多くの異なる方法があります) 記載がないため, 正確には答えようがないのですが, 一般的な問題点を述べて回答とします。

グラム染色は, 細菌細胞の表層構造の違いによって染色性が異なることを利用しています。いいかえれば, 一次染色液とヨウ素液との複合体の大きさと細胞壁ペプチドグリカン層および細胞質膜の密度との関係, さらに脱色剤と細胞壁蛋白・脂質の溶解度の関係によって染別されることになります。ゆえに分類学上のグラム染色性が明示されている菌種であっても, 染色液の種類, 染色方法によっては異染色される場合も見られます。Christian Gramは肺炎患者標本中の肺炎球菌を鑑別染色する目的で, (1) 標本を無水アルコールに浸し, (2) エールリッヒのアニリンゲンチアナバイオレットで一次染色し, (3) ヨード溶液 (ヨード1 : ヨードカリ2: 水300) を作用させ, (4) 無水アルコールで完全に脱色した後, オイゲノールに漬け, (5) ビスマルクブラウン液を作用, (6) 再度アルコールで脱色する分別染色法を開発しました。その結果, 肺炎球菌は濃青色に, その他の細胞は淡黄色に, そして核は褐色に染まったようです。このような分別染色法を1884年に考案し, その後一次染色液にメチルバイオレットやクリスタルバイオレットを, また対比染色液としてサフラニン, フクシン, 中性紅などを利用したグラム原法を発表しています。これをさらに改良したのがHucker & Connであり, Lillieの変法, Preston & Morrellの改良法, そしてBartholomew & Mittwer 法が次々と紹介されました。

 さて, 自分の思い通りの仕上がりに染められれば良いのですが, 一連の操作手順の中には染色性に影響を及ぼすいくつかの因子が存在します。(1) 固定の影響: 方法によっては菌体の変形, 破壊, 収縮, 膨張, 自家融解, 人工産物の生成が起こります。例えば, 多価重金属の場合は遊離カルボキシル基と結びつき, ホルマリンではアミノ基と反応して塩基性色素との親和性を変化させます。また, 一般的な火炎固定では, 本来グラム陽性であるべきブドウ球菌が陰性化するなど, 加熱法は菌への障害が大きいようです。適正な方法としてメタノール法を推奨します。(2) 染色液の影響: 市販色素粉末は化学的単一品でない場合がほとんどであり, 製造元, ロットによって異なることから, 自家調整に際しては事前調査の上, 安定した製品を用いることが大切です。また塩基性色素の効果はアルカリで増減し, クロマチンの染色は酸性・低pHが良く, 電解質の混入は色素分子の凝集を招くおそれがあります。Bartholomew はグラム染色における一次染色液の適応性について実験し, クリスタルバイオレットを最良と述べ, クリスタルバイオレットの代用としてはブリリアントグリーン, マラカイトグリーン, エチルバイオレット, ホフマンバイオレット, メチルバイオレットBおよびビクトリアブルーが利用でき, 酸性色素は不適当と述べています。(3) 染色増強の影響: 菌体と色素の結びつきを早めることが目的として行う増強操作ですが, 一般的には物理的操作の加熱があり, 増強剤としては酢酸, 蓚酸, 石炭酸, 炭酸水素ナトリウム, アニリンなどが知られています。(4) 脱色の影響: 一次染色液とヨウ素で過染色しておき, 次に脱色剤で分別のための条件を整える操作が脱色であり, 過度の溶性または不溶性にならないものを利用することが大切となります。一般に脱色力が強いのはメチルアルコールで, 弱いのはアミルアルコール, 脱色の速いのがメチルアルコール, 適当なのがエチルアルコールとプロピルアルコール, 遅いのがブチルアルコールとアミルアルコールといわれています。(5) 水洗の影響: 水洗も脱色のひとつであり, 直接水洗法で30秒以上の水洗は過剰脱色することが判明し, 丁寧な短時間水洗が推奨されています。

 以上述べましたように, 染色に影響を及ぼす因子は多種多様であり, どのような色素を選ぶのか, 何法で染色するのか, 手技の条件はどうするのかで顕微鏡下の色調はかなり変わってきます。一般的な教本では, グラム陽性菌の色調を (青色, 紫, 黒紫色など) とし, グラム陰性菌を (朱色, 赤色, 紅色など) としています。故に質問者の表現にある“紫色”はグラム陽性と判断するのが妥当と考えますが, 色の表現は個人差が大きく, 文字の表現だけで判断するのは困難です。もし, いつも悩むような色調であれば, 方法を変えて検討されたらいかがでしょうか。最後に医学部の学生ですから, 質問はまず, その場で実習担当の教員にするのが優先と考えます。なんと回答されたのでしょうか???

(大手前病院・山中 喜代治)
【質問者からのお礼】
 丁寧かつ詳細な回答をありがとうございました。あの後も自分で調べてみたのですが, 調べた内容をはるかに上回ることがわかり, とても勉強になりました。実習担当の教員にはその時に質問したのですが, 作業も詰まっており, 納得できるまで質問する時間が得られませんでした。ちなみに, その時の回答は「細菌の栄養状態によって変わる」というものでした。
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