06/01/31
06/02/02
■ 針刺し事故後の検査項目
【質問】
 ただ今, 院内の針刺し事故の対応マニュアルの見直しを行っているのですが, 針刺し事故後の血液検査の項目について議論がまとまらないという状況です。

 医師と検査技師の意見が違う上, 医師の意見が優先されています (ちなみに, 患者が特定できない場合のマニュアルです)。医師は, 肝炎ウイルス (B型, C型) と梅毒の検査, 生化学検査を推しています。検査技師は, 肝炎ウイルスとHIV (必要なら梅毒・・・???) と生化学検査を推しています。患者が特定できない場合, “HIVよりも梅毒が優先されるべきなのでしょうか???” 医師の意見は「うちの病院ではHIVは必要ない」ということです (精神病院だから, 重症な感染症の患者はいないという考えのようです)。他院のマニュアルを研究しても, 患者が特定できない場合は「肝炎ウイルス (B, C型), HIV抗体, 生化学検査」となっている病院が多かったのです。梅毒も理論上は可能性が否定できませんが, マニュアルで規定して, 必須の検査項目として重要視する必要があるのでしょうか??? 質問箱でも「梅毒は1ヵ月後と3ヵ月後」と回答を拝見しました。またHIVの感染率は非常に低いですが「(精神病院だから)HIVは必要ない」のでしなくてもよいのでしょうか??? 低レベルな質問ですみません。よろしくお願いいたします。

【回答】
 針刺し事故マニュアルでの検査項目の選択において,医師側と検査技師とで意見が異なっている。どのようにしたらよいかということですが, 双方の意見がかみ合わず,困った状態ですね。梅毒検査 (医師側) とHIV抗体検査 (技師側) のどちらを優先するかですが, 検査項目の採択は病院の実態により,多少は違いますので,貴病院の委員会で決めるのが最も穏当な方法です。最終判断は病院長が行うのがよいでしょう。部外者である立場から,私見を述べさせてもらいますと, 今日の微生物感染症から,優先順位を決めるとしたら,HIV検査を優先します。わが国は,先進国の中ではHIV感染が増加しており,感染対策が今後,強化されるでしょう。これにより,HIV検査の重要度は増してきます。また,AIDS状態になると認知障害や精神障害を伴うことになり,精神病院とも関係が生じてきます。反対に,梅毒は過去の感染症となりつつあり,一般病院では,感染性の強い顕性梅毒を経験することはまずありません。また,梅毒トレポネーマは, 多くは接触感染 (粘膜) であり,針刺し事故で感染することはないと考えます。現在,TPHAやカード法により「陽性」と判定されている人のほとんどは,抗体のみが「陽性」の陳旧性梅毒であり,非感染性です。

(近畿大学・古田 格)


【質問者からのお礼】
 質問箱への回答, 早速拝見いたしました。大変丁寧なご回答を戴き, ありがとうございました。早速, 参考にさせてもらい, 当院の感染対策委員会で提案していく予定です。専門的な知識を持った先生方に回答をいただけたので, 自信を持って提案することが出来ます。これからもご指導していただく機会があるかも知れませんが, どうぞご鞭撻賜ります様, よろしくお願い致します。この度は大変お世話になりました。


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