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【質問】
HBs抗原陰性でも, HBc抗体陽性の場合には, 肝臓あるいは血中にごく微量のHBVが存在しているということを最近知りました。その場合,
通常の生活を送っていれば本人の健康にはまったく影響がないとのことですが・・・
(1) HBs抗原陰性, HBs抗体陽性かつHBc抗体陽性の女性が妊娠・出産する場合,
新生児への感染のリスクは生ずるのでしょうか???
(2) この場合, 妊婦はキャリアという訳ではないけれども児にワクチン接種するべきなのでしょうか???
(3) HBs抗体陽性の妊婦は, HBc抗体も調べておいたほうが望ましいのでしょうか???
どこを調べても記載されてないため, 質問させていただきました。よろしくお願い申し上げます。
【回答】
HBs抗原陰性, HBs抗体陽性, HBc抗体陽性の臓器提供者の肝臓を移植した場合,
移植を受けた方が高率にHBs抗原陽性になることが, 1980年代の中頃から報告され出しました。その後,
B型肝炎ウイルス (HBV) に感染した後, HBs抗原が陰性化しても肝臓の組織中や血液中にはHBVの遺伝子,
DNAが存在することが証明され, このような病態をOccult HBV Infection (極微量のB型肝炎ウイルスの感染)
と呼ばれています。ただし, どのような病的な意味があるのかはまだ不明です。分かっていることは:
・血液の中のHBVのDNA量は極微量で, 遺伝子増幅法, PCRでの検出限界以下の場合が多い
・肝臓の組織中のHBV-DNAは高率に検出される
・肝臓移植をすると, 移植を受けた方が高率にHBs抗原陽性になる
・輸血をした場合, 極稀に輸血後HBV感染がある
・癌などの化学療法治療などにより患者の免疫機能が低下するような特殊な状況ではHBVによる肝臓障害が再燃する可能性がある
・肝臓に病変があったとしても, 肝臓の組織内のHBVの増殖だけでは病変を進行させる原因にはならない。
御質問の内容については:
(1) “100%感染しない”とは言い切れませんが, HBs抗原陰性, HBs抗体陽性,
HBc抗体陽性のお母さんからの母子感染の報告は見当たりません。
(2) この場合, 一定の「母子感染防止対策ガイドライン」はありません。
個人的な意見として, どうしても母子感染が気になるようでしたら, 生まれたお子さんにHBワクチンを接種されたらどうでしょうか。ただし健康保険の対象外になりますので,
自費負担となります。
(3) ワクチン接種によるのか, HBV感染によるHBs抗体陽性なのかを区別して知る目的では意味があると思いますが,
母子間の感染防止の目的では必要ないと思われます。
(アボットジャパン・中島 俊彦)
【質問者からのお礼】
詳細なご回答ありがとうございました。Hepatologyなどの論文を読んでみましたが,
腑に落ちなかったため質問させていただいたのですが, 強い感染力を持つ (HBe抗原陽性)
ウイルス血症でない状態であれば, 基本的に母子感染のリスクはきわめて低いのですね。ありがとうございました.
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