06/07/19
■ HBs抗原・抗体検査の結果判断
【質問】
 HBs抗原, 抗体の検査業務をしております。先日の検査で, HBs抗原が2000 mIU/ml以上 (←当施設での希釈なしでの測定限界値) で, しかもHBs抗体が7.4 mIU/mlという結果がでました。HBs抗原が極めて高力価であるにもかかわらず, その中和抗体であるHBs抗体が出現する (陽性となる) というのはどういった状態なのでしょうか。なお, 当施設ではHBe抗体などの検査は行っておりません。ご回答よろしくお願いいたします。この受診者は, 去年はHBs抗原は「陽性」, 抗体は陰性で, 肝炎での治療通院はしていないそうです。

また, 「不規則抗体」とはどういうものでしょうか??? よろしくお願いいたします。

【回答】
 HBs抗原とHBs抗体が共存する場合の可能性は以下の2つがあります:
(1) HBs抗原の変異

 最初に感染したB型肝炎ウイルス (野生株) に細胞性免疫や液性免疫のような免疫学的な圧力が加わわると, この圧力から逃れられるようにウイルスが変異します (この変異したB型肝炎ウイルスを変異株と呼びます。HBs抗原も, 野生株由来のHBs抗原と変異株由来の変異HBs抗原が共に産生されます)。免疫学的な圧力が徐々に強まってくると, 野生株の産生が抑制され, 変異株が増殖してきます。その結果, 野生株由来のHBs抗原の量が減少し, 野生株由来のHBs抗原に反応するHBs抗体が陽性になります。一方, 変異株由来の変異HBs抗原量は増加し, 陽性になります。すなわち, 野生株由来のHBs抗原に対するHBs抗体と変異株由来の変異HBs抗原が共存することになります (野生株由来のHBs抗原に対するHBs抗体では変異HBs抗原を中和できません)。その確認方法としては, 同等以上の検出感度を持つ別の測定系でHBs抗体を測定する (陽性の場合は変異株の出現, 陰性の場合は偽陽性の可能性があります)。変異株による共存例の場合は, 経過観察を行うと, 徐々にHBs抗体価が上昇していく場合と, 陰性と陽性を繰り返しながらHBs抗体が持続陽性になっていく場合が見受けられます。HBs抗原量は, 一般に, 徐々に減少する場合が多く見受けられます。

(2) HBs抗体の非特異反応
 HBs抗体測定系における非特異反応によるHBs抗体陽性例があります。確認方法としては, 同等以上の検出感度を持つ別の測定系でHBs抗体を測定するか, あるいは後日再検査をすることになります。

 なお, 質問の中にありますHBs抗原 2000 mIU/mlの単位表示ですが, HBs抗原の表示単位としては通常使われていません。通常はIU/ml, ng/mlあるいはS/Cが使われています。今回は最大測定値と判断して回答しました。

(アボットジャパン・中島 俊彦)
 血液型に関連する「不規則抗体」とは, 赤血球刺激によらずに産生された抗A, 抗B以外の赤血球抗体を意味します。
(琉球大学・山根 誠久)

戻る