06/10/17
■ 訪問入浴で使う物品の消毒
【質問】
 私は訪問入浴の看護師をしております。事業所内での感染症対策のマニュアルを作成することとなり, 現在資料を集めているところです。入浴で使用する物品で, どのような消毒方法を用いるべきかの検討が急務となっており, いくつかお伺いしたいのでよろしくお願いいたします。

(1) 現在浴槽は, MRSAや緑膿菌に殺菌能力の強い物を使用していますが, 洗剤で洗浄できない縁や浴槽の下に敷くシートなどの部分はどのような消毒薬を用いたらよいのでしょうか??? 現在アルコールを使用しています。

(2) 肝炎・MRSA保菌者に対してバイタル測定セットを非保菌者とは別のものを使用していますが, 意味がないように思います。分ける必要はあるのでしょうか???

(3) 肝炎・MRSA保菌者に対しての入浴介助時, ディスポ−ザブルのエプロン・手袋を使用しています。肝炎の場合は出血していない限り必要性を感じません。また, MRSAの場合も不要なのではないでしょうか???

(4) MRSA保菌者に対して使用した顔拭きガーゼや体を洗う際に使用したタオルなどはどのように消毒したらよいのでしょうか???

 御回答よろしくお願いいたします。

【回答】
 まず, MRSAと肝炎という感染経路の異なる感染症が一緒になっているので, それを区別することと, いくつかの感染に関する基本的な知識を確認させてください。

1) MRSAや肝炎ウイルスなどの病原体がヒトに感染するには, 侵入すべき門戸と感染するに十分な量の病原体が必要です。侵入門戸とは, 傷口や粘膜です。健康な皮膚は極めて強固なバリヤー機能を持っており, 容易に病原体は侵入できません。また, 感染するためにはある一定以上の病原体の量が必要です。侵入門戸ですが, MRSAの場合には褥創, 気管切開, 尿道カテーテルなど, 通常とは異なる状況 (皮膚のバリヤー機能が傷害されている) があれば, その部位に感染しやすくなります。また, 肝炎ウイルスの侵入門戸は通常, 針刺しなどの血液や体液の付着した器材が皮膚を貫通することで感染します。したがって, 入浴介助のような行為では容易に感染はしません。また, 感染するにはある一定以上の病原体の量が身体に侵入しないと感染が成立しませんので, 例えば MRSAが浴槽に数個残っていたら感染するかというと, そう簡単に感染するものではありません。そうすると, 感染しないためには病原体の量を減らすことも重要なポイントになります。病原体の量を少なくするために, 消毒以外に必要なことは“洗浄”です。

2) 「洗浄」は汚れに付着した病原体を石鹸で汚れを浮かし, 物理的にこすることで病原体の量を極力少なくし, 感染する危険性を下げます。ちなみに, 徹底的な洗浄は消毒に近づくとも言われます。したがって, 汚れたものはまず流水と石鹸できれいに洗い, 病原体の量を減らすことが極めて重要です。

3) MRSAや緑膿菌と肝炎 (B型あるいはC型) の感染経路が異なることをまず理解してください。勿論, 標準予防策という基本を忘れてはいけません。 MRSAや緑膿菌は, 咽頭, 喀痰, 褥創あるいは尿, 時に便などから検出されますが, 健康な人には大きな問題となることはありません。訪問入浴介助で, 他の患者にも拡がるのを防ぐためには, 職員の手指を介した接触感染をなくすことでありであり, 入浴介助が終了し, 次の家庭へ行く前に担当職員の手指衛生を徹底することだと思います。一方, 肝炎ウイルスは血液を介した, 特に針などの刺創により感染することが主なものであり, 出血しているなどの状況がない限り, 感染することは極めて少ないのです。以上をふまえて, 個々のご質問にお答えします。

(1) 浴槽は, きれいに石鹸と流水で洗い流し, 乾燥させれば問題ありません。また浴槽の縁や浴槽のマットなども, きれいに洗えば十分です。理想的には, 洗ったものが乾燥されることも重要です。

(2) バイタルセット (血圧計のマンシェットや聴診器) ですが, 肝炎患者においては区別する必要はありませんが, MRSA患者においては皮膚への定着があるので, 布製ではなく, アルコールで拭けるようなマンシェットがありますのでそれを使用されるとよいかと思います。聴診器は患者毎にアルコールで丁寧に拭いて消毒してください。

(3) 肝炎患者の入浴介助については, ご指摘の通り不要でしょう。MRSA患者などの接触感染を引き起こす感染症では, 介助者の衣類が汚染されないようにすることが目的ですので, 標準予防策を適用してください。

(4) MRSA患者への使用後のタオルは, 通常通り洗濯するだけで大丈夫です。要するに大量の水と洗剤できれいに洗い流すという方法で, まず問題ありません。ただし, 病院ではシーツ・リネン類は80℃, 10分間の熱水消毒が法的に決められています。

(京都府立医大・藤田 直久)


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