05/06/02
05/06/13
■ 犬, 猫, 鳥類由来の大腸菌
【質問】
 4年制大学, 工学部, 土木系学科の4年生です。今, 私は卒業論文に着手しています。屋根を経由した雨水を貯留して, その雨水の水質および変化を研究をしています。その中で一般細菌および大腸菌の調査をしています。私は土木系のため, 微生物に関しては詳しくありません。お聞きしたいのは大腸菌に関することです。「大腸菌は, 人と犬や猫, 鳥類などでは違うのでしょうか???」。違うのであれば, 詳しいことを教えてくれないでしょうか??? 専門の先生, お答えおねがいします。

【質問】
 お聞きしたいことがあります。私は卒業論文の研究で, 貯留した雨水の水質について調べています。内容の一環で, 大腸菌数と一般細菌数の測定しています。大腸菌はデスオキシコーレイト培地実験, 一般細菌は標準寒天培地実験で調べています。調査の結果, 少数の大腸菌が検出されました。雨水は建物の屋根を経由した後, パイプを通り, 貯留水槽へと送られます。この検出された大腸菌は, 鳥類や猫など野生動物由来のものだと考えたのですが, 詳しいことがわかりません。人体内の大腸菌と他動物内の大腸菌は違うものなのでしょうか??? 詳しいことを教えてください。

【回答】
 大腸菌は, ヒトをはじめ, 哺乳動物や鳥類にいたるほとんどの腸内に生息する常在細菌の一種です。人工培地 (寒天平板) 上に発育してきた大腸菌はどれも似たような顔つきをしていますし, 基本的な生化学性状から個々の菌の由来を区別するのは困難です。ところが, それぞれの動物から分離されてくる大腸菌をさらに詳しく調べますと, 驚くほど多様性に富んだ集団であることが分かってきました。大腸菌の顔つきを免疫学的に調べてみますと, O (細胞壁) 抗原173種類, K (莢膜) 抗原72種類, H (鞭毛) 抗原56種類, F (線毛) 抗原12種類が認められており, そのなかのある特定の抗原性を組み合わせた大腸菌がそれぞれの動物に優先的に住み着いているようなのです。例えば, 最近問題になっている腸管出血性大腸菌で有名になったO157 (H7) は牛の腸内に生息していますが, それらが鶏から分離されることはほとんどありません (鶏からはO1, O2あるいはO78といった別の大腸菌が多く分離されます)。そういう意味では, 牛の腸内で生活している大腸菌と鶏の腸内で生活している大腸菌は違うことになります。ただし, 動物種間で明確な棲み分けがなされているのかというと, 多少あやしくなります。といいますのも, 大腸菌は土や水の中でも長期間生存でき, そこから別の動物に入り込むことができるからです。もしその菌が不幸にして侵入した動物 (たとえばヒト) に激しい傷害を及ぼすような場合は, 病原性大腸菌として認識されます (これはその大腸菌にとって, その動物の消化管内が安定した生息場所でないことを意味します) が, そうでなければ, うまく定住できる可能性が残されています。実際に居住を共にするヒトと動物 (イヌやネコ) から同じ抗原型の大腸菌が分離されることがあります (もちろん両者には何の異常も認められません)。ある大腸菌がその動物の消化管内で定着し, 増殖するためには, その菌がもついろいろな因子 (とりわけ定着因子) が必要なのですが, そればかりでなく, 動物側の要因 (健康状態や住環境も含む) も複雑に関係しているようです。

(宮崎大学・後藤 義孝)
【質問者からのお礼】
 お答えありがとうございました。学校の図書館や地域の大きな図書館に行き専門書を探したのですが, 初心者向けの本がないため苦戦していました。本当にありがとうございました。また実験経過で疑問点が浮上した際は質問をさせていただきます。よろしくおねがいします。

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