06/01/16
06/01/20
■ IVHからの血液培養採取
【質問】
 私は, 650床の県立病院で細菌検査を担当している臨床検査技師です。血液培養の際, IVHからの採血での消毒方法について教えてください。

 血液培養は, 静脈あるいは動脈からの採血であると思うのですが, 菌血症がIVH由来なのか, コンタミなのかを確認するために, 静脈からとIVHからの採血と2組の培養依頼をする医師がいます。血液疾患の患者の場合にはよくあることと担当医師から説明を受けました。血液疾患患者の発熱時に, 看護師が採血しているとのことです。しかし, IVH採血検体からの菌検出が頻繁のわりに, 臨床症状と合致しないため, IVH採血時の採取部位の消毒方法に問題があるとして, 担当医師より正しい消毒法を看護師に指導して欲しいとの申し出がありました。血液培養時の正しい消毒法としては, こちらのサイトでの回答を参考にさせていただき, 採取部位を広範囲にアルコール綿で30秒ほど丁寧に拭き, イソジンをたっぷり含ませた綿球で内側から外側へ円を描くように2回・・・・という具合に研修医と看護師に指導してきました。しかし, IVHからの採血で採取部位の消毒方法となると, 通常通りの消毒をして効果があるのでしょうか。それとも, IVHからの採血は血液培養には適していないことを担当医師に伝えるべきでしょうか。ご教示宜しくお願いいたします。

【回答】
 随分と身勝手な担当医師ですね。“血液疾患の患者の場合にはよくあること”とだけ説明して看護師に採血させ, 陽性の頻度が高いと“採取部位の消毒方法に問題がある”といって臨床検査技師に正しい消毒方法を看護師に指導して欲しいとは・・・何故, IVH採血と静脈採血のふたつを検査するのか, その目的と判断基準を担当医師, 自らが関係者に説明すべきものです。

恐らく担当医師 (血液疾患を取り扱う仲間の医師を含め) は, カテーテル関連感染 (catheter-related infection: CRI) を診断するために, IVH採血と静脈採血のふたつを検査するのが常識的な方法だと考えているのだと思います。しかし未だにCRIの確定診断法はありません。当面の姑息的な方法として以下の方法が提唱されています。
 

  • 定量的な血液培養 (血液検体中の細菌濃度を直接計測) を行って, カテーテルを通過して得た血液培養での“コロニー数 (colony forming units/ml)”が, 静脈採血して得た検体のコロニー数の4倍を超える場合。

  • 文献 (1) Capdevila JA et al.: Value of differential quantitative blood cultures in the diagnosis of catheter-related sepsis. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 11: 403〜407, 1992.
     
  • 全自動血液培養装置を用いる場合には, カテーテルを通過して得た血液培養での“陽性判定時間 (hours)”が, 静脈採血して得た検体の陽性判定時間より2時間を超えて早い場合。

  • 文献 (2) Raad I et al.: Differential time to positivity: a useful method for diagnosing catheter-related bloodstream infections. Ann Intern Med 140: 18〜25, 2004.

     ふたつの診断方法は, 基本的に“CRIの可能性は, カテーテルに付着する細菌の数と高い正の相関をもつ”という事実に基づきます。従って, 血液検体中の細菌濃度を定量する, あるいは全自動血液培養装置での陽性判定時間を比較できる検査環境になければIVH採血と静脈採血のふたつを検査しても, ただ検査したというだけで, 意味のある診断にはなりません。

     また, 菌血症の有無を診断するのが目的なら, IVH採血の検体は検査に不適切ですから, 止めたほうがいいです。医療資源 (お金) と人的資源 (時間と手間) の無駄です。いずれにしろ, 検査の目的, そうすることの理論と方法, 判断基準を担当医師に問いただすのがまず最初でしょう。

    (琉球大学・山根 誠久) 


    【質問者からのお礼】
     お忙しい中, 丁寧にご回答いただきありがとうございました。早速, 担当医にIVH採血の目的を確認したところIVHラインの中の細菌の定着の有無を知りたいとのことでした。コンタミあるいは定着なのかは, 臨床症状と培養陽性報告の時間で判断しているとのことでした。これまでは, 陽性になった時点でグラム染色結果を中間報告として主治医に連絡をしていました。これからは, 先生のご教示を参考にさせていただき, “陽性になった時間”も報告することにしました。色々と詳しく教えていただきましてありがとうございました。大変勉強になりました。今後とも宜しくお願いいたします。

    【追加質問】
     肝心なところを明記しないままに送信してしまいました。申し訳ありません。血液疾患担当医師の検査目的からすると, これから先もIVHからの採血が続くことが予想されます。IVHの穿刺部位の消毒ですが, 通常の血液培養時の消毒方法で効果があるのでしょうか。教えてください。

    【回答】
    「IVHラインの“中 (内壁)”の細菌の定着の有無を知りたい」という担当医の希望なら, 特別な皮膚消毒法は不要と考えます。IVHを通過した血液の採取方法がはっきりしませんが, ライン断端と採血用注射器との接点 (あるいは注射針の穿刺部位) をきちんとアルコールで消毒することに注意すれば充分と考えます。

    (琉球大学・山根 誠久)


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