06/06/26
06/06/28
■ 血液培養でグラム陰性桿菌
【質問】
 総合病院勤務の内科医です。感染症の診断治療にも携わるとともに院内感染対策・サーベイランスの勉強もさせていただいております。

 血液培養からグラム陽性桿菌 (以下GPR) が時々検出されます。GPRは通常は環境に広く分布する細菌でヒトに病原性を発揮することは少ないと理解しています。また, 清潔操作で血液培養を採取すればコンタミネーションをおこす頻度も低いと思われるのですが, 当院ではGPRの検出率が高く, ある月では血液培養からの検出菌の第2位となったりします。GPRの同定は全例には行なっておりませんが, ある月に外注にて同定したところ, ほとんどがBacillus cereusでした。発熱患者の複数回の血液培養から検出され, 起炎菌と考えられる症例も散見されます。文献にも乏しく, 対応に苦慮しております。質問は: 

(1) 血液培養からBacillus cereusが多く検出されてしまうのには (コンタミも含め) どのような原因が考えられますでしょうか。

(2) Bacillus cereusがヒトに感染症を起こすとした場合には, どのような疾患が考えられるのでしょうか。

(3) 当院の血液培養の採取は, 看護師が行なう場合には業務上の取り決めで「アルコール消毒を2回行なって採血」となっています。イソジン消毒を行なわないことが原因の一端かもしれないと考えておりますが, Bacillus属は一般にはイソジンにも耐性のため関係がないとも聞きます。採取法にも問題があるのでしょうか。

 長文失礼いたしました。ご意見のほど, よろしくお願いいたします。

【回答】
(1) 血液培養からBacillus cereusが多く検出されるのは:
 恐らく,血液培養時における無菌操作に問題が残されているようです。看護師が血液採取を行っているようですが,血液培養での血液採取は医師が行うべきです。先生が自ら採血現場へ行かれて,採血操作をチェックして下さい。これによって問題点が解決されるでしょう。

 B. cereusがやっかいなのは,本菌が自然環境菌であり,芽胞を形成することで,各種の検査材料から検出されるのは多くは芽胞の混入によるものです。汚染された環境下では室内にも芽胞として存在し,塵挨として飛散します。また,日常使用する器具やリネン類が芽胞で汚染されることも報告され,ICUでのoutbreakが知られています。

(2) Bacillus cereusによるヒトへの感染
 最も良く知られているのは,本菌による食中毒であり,病原株が産生するエンテロトキシンにより,嘔吐や下痢が見られます。原因食としてはチャーハンや肉料理などがあり,アジア,ヨーロッパや北米などでも食中毒が報告されています。B. cereus による感染としては:

 外傷後の眼内炎肺炎, 心内膜炎 (薬物乱用者), 菌血症や敗血症(カテーテル汚染), 軟部組織や筋肉感染, 脊椎炎, 髄膜炎, 日和見感染者 (消耗性基礎疾患,免疫抑制剤使用,外傷,AIDSなど)での感染が多い。

(3) 血液採取での問題は:
採血は専門的知識をもつ,医師が行う。
採血時に使用する器具の定期的滅菌が必要。
採血室を清浄な環境に。
消毒はイソジン消毒で行ってください。
消毒剤の作り置きは避けてください。
特に, B. cereusの芽胞のコンタミネーションに注意して下さい。
 

(近畿大学・古田 格)


【質問者からのお礼】
 ご助言ありがとうございました。B. cereusの検出には季節性があるようにも思います。夏場に多く, 冬の寒いときにはどうも検出されません。また, 自分を含め, 医師が清潔操作で採取したときにも検出されます。コンタミの問題だけではなく, 明らかに起炎菌であると思われるケースにも遭遇します。ちなみに当院はイソジン綿球はディスポのボトルで作成し, 毎日交換 (破棄) するようになっています。


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