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【質問】
質問ですが, 腸炎ビブリオを長期保存 (−80℃) としてマイクロバンクに,短期保存
(室温) として1% NaClカジトンに保存しています。本年の4月に長期保存から,カジトン3本に継代し,5〜7月で1本ずつ使用しました。カジトン使用後は廃棄しています。7月にカジトンが1本になったとき,この菌株からさらに3本のカジトンに継代しました。このうちの1本を使用して,
性状を8月に確認したところ,8% NaCl加ペプトン水での増殖が確認されませんでした。なお,5〜7月でのカジトンでは増殖は確認されています。継代中に変異を起こしたのでしょうか???。もし,これが変異がとしたら,変異を起こさないようにする菌株の使用方法があれば教えてください。よろしくお願い致します。
【回答】
簡潔に回答申し上げます。まず,
(1) 8%NaCl加ペプトン水での増殖が確認されなかったのは変異を起こしたのでしょうか???
確かに, 多くの V. parahaemolyticus の菌株は8%NaCl加ペプトン水で増殖しますが,
8%という濃度は少々高過ぎて, すべての株が発育可能な濃度ではありませんよね。このあたりが気になります。また,
ご質問の「8%NaCl加ペプトン水での増殖が確認されなかった」というのですから,
死滅していたことは考えられませんか??? このあたりが, ご質問の文面からは正確に伝わってきません。私は死滅していた可能性が最も大きいのではないかと考えました。というのは,
特に Vibrio 属菌は, 保存中に非常に死滅しやすい菌なのです。質問者はマイクロバンクで保存
(?80℃) しているとのことですが, どのくらいの期間なのでしょうか??? Vibrio
属菌はマイクロバンク保存 (?80℃) でも, 年単位での長期保存が極めて困難な菌種です。また,
7月に継代して, どのくらいの日数を室温で保存されたのでしょうか??? 私は,
8%NaCl加ペプトン水での増殖が確認されなかったのは, 変異の問題ではなくて,
単に室温保存で死滅してしまっていた可能性が最も高いと考えましたが, 如何でしょうか・・・
また, もう一点の,
(2) 変異を起こさないようにする菌株の使用方法は??
使用方法ではなくて, 「保存方法」という理解でよろしいでしょうか???
Vibrio 属菌は極めて死滅しやすいという特徴があります。変異を回避すると言うこともそうですが,
とにかく最も確実な保存方法は“凍結乾燥法”でしょう。質問者は専門の研究機関にお勤めですので,
この“凍結乾燥法”を最もお薦めいたします。安全度が高い保存方法で, 凍結乾燥法に優る保存方法は他にないと考えます。
(信州大学・川上 由行)
【質問者からのお礼と追加質問】
とても参考になりました。ご丁寧に回答していただきありがとうございました。これに関連してさらに質問してよろしいでしょうか。「8%という濃度は少々高過ぎて,
すべての株が発育可能な濃度ではありません」とのことですが,8%よりも7%で確認したほうがよいのでしょうか。申し訳ありませんが,このところが気になりますのでよろしくお願いします。
【回答】
「8%という濃度は少々高過ぎて, すべての株が発育可能な濃度ではありませんとのことですが,8%よりも7%で確認したほうがよいのでしょうか」との追加質問ですが,
確かに V. parahaemolyticus の多くの菌株は8%どころか10%塩化ナトリウム存在でも発育可能な菌株も知られています。しかし,
例外的な菌株の存在が'最も少なく, しかもその他の菌種との鑑別も確実に可能な食塩濃度について,
私は「6%」が一番無難かと考えています。事実,
米国微生物学会 (American Society for Microbiology: ASM)から出版されている“Manual
of Clinical Microbiology 7th Ed. (最新版の8th Ed.が今, 手元にありません)”にも「6%」を推奨する記載が見られます。ご参考にしていただければ幸いです。
(信州大学・川上 由行)
【質問者からのお礼】
ありがとうございました。とても参考になりました。今後ともよろしくお願い致します。
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