05/02/04
■ 菌種名変更の最新情報と変更の理由
【質問】
 先日, ある検査機関に細菌の菌種同定依頼を行った結果, 以前と菌名の名称が異なっていました。検査機関に聞いたところ, 菌名の名称が変更になったとのことでした。このような情報を出来るだけ早く知りたいのですが, インターネットを使用した場合, どこにアクセスすればわかるのでしょうか???

 また微生物の菌種が新しく命名されるのは, どういう理由で変わるのでしょうか??? ご回答, 宜しくお願いします。

【回答】
 簡潔にお答えします。まずは一点目のご質問ですが, 菌種名が新たに追加されたり, 従来の呼称が変更されたりというのはよくあることです。インターネットのある特定のサイトにアクセスすれば分かりやすい情報が容易に入手できるという状況はないと思います。微生物学や細菌学の専門誌 (例えば, 日本細菌学雑誌) には, 一定の時期にまとめて, これらの情報を流している場合もありますが, 臨床的に重要度の高い菌種ばかりではなく, 植物細菌から土壌細菌から水産学領域の細菌から始まって数多くの菌種についての情報ですから, 利用者自らが取捨選択しなければなりません。一番確実な方法は「International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology」を毎月コマメにチェックして, 必要な情報を収集していくことではないでしょうか。なお, この雑誌は[http://ijs.sgmjournals.org/]から閲覧することが可能です。

 第二点目のご質問の「微生物の菌種が新しく命名されるのは, どういう理由で変わるのでしょうか??? 」ですが, 一言で言えば, これまで知られていない菌種であれば, 当然のことながら, 新しい属名・種名が提案されます。1976年の Legionella 属や, 20世紀も押し迫ってからの Helicobacter 属などはこの代表的な事例と言えるでしょう。また従来は, 同一属の中に分類されていたり, また充分な識別がなされないままに, 同一菌種の中に包括されてきた菌種が, 実はまったく別の属に再分類すべきであるとか, まったく別菌種であることが明らかとなった場合は, 当然のことながら, 新しい属が, または新しい種が提案されます。属の決め方, 種の決め方については専門的になりますので, 簡潔な回答は困難です。一言で言えば, 遺伝学的な手法が分類学に導入されてきてから, 分類が複雑化してきているというのは事実かと思います。Type strain との DNA/DNA hybridization の結果から DNA homology が70%以上であれば, type strain と同一菌種ということですが, 既知のどの type strain との相同性も低い場合は新しい菌種ということでしょう。また, 16srRNA の解析から, 分類学にも属 (Genus) と種 (Species) だけ (これをα分類学という) ではなく, 科 (Family) を始めとする階層構造 (これをβ分類学という) までもが要求されてきており, 非常に複雑化してきております。このような解説で, 回答者が意図するところを汲み取っていただきたく思います。

(信州大学・川上 由行)

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