05/07/14
05/07/15
■ 抗酸菌PCR検査でのNALCとNaOHの濃度
【質問】
 はじめまして。検査センターで結核菌・MACのPCR (アンプリコア) を担当する検査技師です。検査に対する理解の仕方や考え方に悩んでいます。基本的なことで大変申し訳ありませんが, 意見を聞かせてください。

 結核菌とMACのPCRの前処理についてです。前処理にはNALC-NaOHを使用しています。以前はNaOHがメインで, NALCは喀痰溶解剤として補助的に入れていました。ところがPCR検査ではNALCがメインで, NaOHは喀痰を溶解するのではなく雑菌を処理するだけという認識です。そのため当初, NALCは10%, NaOHは●%を使っていました。NALCは酸性のため, 10%も入っているとNaOHの効果が弱くなる (自論ですが) と説明し使用を中止してもらいました。現在は●%NaOHに対し●%のNALCのみを使っています。私の考えは間違っているのでしょうか??? (●%は企業秘密でいえません。現在でも増幅阻害率は6〜8%あります。以前はもっとひどかったです)。

 あと, 現在NALCは天秤できっちり計量して入れていますが, その必要はあるのでしょうか??? (そこにとられる人員がもったいないです。培養していた頃は何mlに対し薬さじ1杯という感じでアバウトでした)。

最後に, 結核菌・MACのPCRに限定した (処理後の検体で, 塗抹・培養などはしない) 検査でNaOH濃度はどの位の濃度まで上げても検査結果に影響しないとお考えでしょうか??? (処理時間は30分以内)。個人的にはNALC濃度は0.5%程度に抑え, NaOH濃度を上げたいと考えています。大量に検体を処理するため, スプーターザイムなどでの処理は難しく (時間的に), NALC-NaOH処理一本で行いたいと考えています。私の簡単な検討では, 3%NaOH・0.5%NALCでも, 推奨法である2%NaOH・0.5%NALCと同等の結果が得られました (個人差による阻害率を考えれば, 同等以上)。長々とすみません。よろしくお願い致します。

【回答】
 質問の内容にあ然とし, ショックで愕然としています。いわゆる“検査センターでの検査の実態”を垣間見る思いです。

(1) まず, “企業秘密からNaOH, NALCの濃度を公表できない”とのこと・・・私に言わせれば正しく“糞喰らえ”, 言語道断です。こんな秘密が許されるのですか??? 貴君の検査センターに検査を依頼している医療機関にも話せない秘密なのですか??? 臨床検査を“商い”としてお金をいただいているのであれば, 顧客から求められれば, その内容や方法を明らかにするのは当たり前のことだと思うのですが・・・検査センターには法律に従って, 検査マニュアルが用意されている筈です。その検査マニュアルとは違う方法で実際には検査し, それを秘密にする・・・これはもう“犯罪だ”と考えます。

(2) 結核菌・MACのPCRに限定した (処理後の検体で, 塗抹・培養などはしない)・・・愕然とした理由がここにあります。処理後の検体で, 塗沫・培養などはしない。単にPCRをしたいのだと・・・なんのための検査ですか??? 単に金儲けのための検査ですか??? 顧客がそのように依頼してきたから, 塗沫も培養もしないのですか??? 検査センターには, 検査目的に合致する正しい検査依頼の方法を指導し, 正しい検査依頼ができる (させる) 道義的責任があると私は考えています。PCRの依頼に, 必ず塗沫と培養を含ませる依頼方法にすればいいだけですから・・・

いろいろと質問されていますが, 貴君への回答は一言・・・“NALC-NaOH法は結核菌の培養を目的として提案されているものであり, PCRだけを目的にしたものではない”ということです。培養しないのなら, なにも難儀なNALC-NaOH法を行う必要はないのです。NALCやNaOHの至適濃度を議論する必要もないのです。どんな方法でもよいから, 結核菌のDNAを抽出したいということであれば, NALC-NaOH法にこだわる必要はまったくないということを理解してください。

(琉球大学・山根 誠久)

【読者からの意見】
 いつも拝見させていただいております。検査センター▲▼で抗酸菌検査を担当しております。本日アップされていた「抗酸菌PCR検査でのNALCとNaOHの濃度」についてですが, 非常に憤りを感じ, メールさせていただきました。この質問をされた方がどこの検査センターに勤務されているのか, 是非, 教えていただきたい思いです。私共は多くのユーザーを抱え, 診断・治療に役立つ結果を報告しようと日々努力しております (もちろんどのセンターも同様だと思います)。この一通の質問で, どれだけのユーザーの信頼を失いかけてしまっているか・・・“多くの検体を処理する”・・・そんなことは当たり前です。しかし, それを理由にまるでいい加減な検査を実施していると勘違いされては困りますし, もちろんしているつもりもありません。今までの努力が, 一瞬にして消されてしまっては困るのです。特に抗酸菌検査は施設などの問題から, 外注せざるをえない現実がユーザー様にはあると思いますし・・・検査の方法や内容の検討や改良は必要だと思います。しかし, それは検査側の都合ではなく, 検査結果 (患者様) のために行うべきです。まとまらない文章になってしまいましたが, とにかく, よりよい結果の提供できるよう, これからも日々努力してまいります。失礼いたしました。

【質問者からの意見】
 ご回答ありがとうございました。

 “企業秘密”という不適切な表現をしてしまい申し訳ありません。NALC-NaOH濃度は公表できない濃度ではありません。キットの説明書などに書かれている濃度は2% NaOH・0.5% NALCですが, NALCのみ1%に濃度を上げています。微妙な工夫をしているにもかかわらず, 増幅阻害による再検率は高く (効果はなく) 大変恥ずかしく, あまり公表したくなかったというのが本音です。企業秘密は誤りでした。NALC 1%程度の濃度変更は許容範囲内と考えています。しかし, 説明書通り, 「結核指針」通り検査をし, 結果を報告しなければ納得してもらえないという顧客も沢山います。ですから0.5%濃度が違うということは大変なことなのです。

「結核菌・MACのPCRに限定した (処理後の検体で, 塗抹・培養などはしない)・・・」も説明不足でした。検査工程上, 塗抹・培養が先に実施されるため, PCRの後には塗抹・培養はしないという意味です。しかしながらPCRと塗抹・培養との同時依頼は多くなく, 先生のご指摘通り,「検査センターには, 検査目的に合致する正しい検査依頼の方法を指導し, 正しい検査依頼ができる (させる) 道義的責任がある」という考えには同感いたします。病院の先生方との連携をとりながら正しい検査体制をめざして努力していきたいと思います。

【追加回答】
“NALC濃度0.5%を1%で使用している”という点について回答します。PCR試薬は市販のキットを使っているのでしょうか。もしそうだとするのなら, 濃度, すなわち使用方法を勝手に (製造元の了解なく) 変更するのは問題だと考えます。Product liability (製造責任) が係わるからです。使用者側 (貴君) が製造元の提示した取り扱い方法から逸脱して, 他者 (患者) に実害を与えた場合を想定してください。患者は貴君と製造元に損害賠償を求めるでしょう。その時, 製造元は間違った使用をされたとして患者への賠償責任を回避し, さらに自社商品のイメージを損なったとして貴君を訴えることも可能です。提示された使用方法とは異なる方法で検査する場合には, 必ず製造元の了解を得ることを勧めます。その意味で私は, 使用者が厳密に製造元の提示した方法で検査し, 結果的に検査不能になった時の責任の一部は製造元が負うべきものと考えています。

(琉球大学・山根 誠久)


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