06/07/14
06/07/19
■ レジオネラ属菌の血清群の同定
【質問】
 いつも楽しく拝見しております。私が勤務する機関では, 浴槽水の検査を行なっており, その検査項目の1つにレジオネラ菌の検査があります。今現在は, BCYEαなどの生培地を使用して検査を行なっており, 最終的に関東化学から販売されている「レジオネラ・ラテックス・キット」を用いて血清群を調べているのですが, 判定がいまいち明瞭でなく困っているのが現状です。以前は別のものを購入したのですが, レジオネラ症が疑われる患者の血清を検体として要するため, 浴槽水検査で行なう血清群の判定には使用できませんでした。勉強不足で申し訳ありませんが, 浴槽水のレジオネラ属菌の血清を調べるときに, 一般的に広く用いられる検査試薬は何か教えてください。お忙しいところ申し訳ありませんが, よろしくお願い致します。

【回答】
 レジオネラ属菌の血清型別を調べる検査試薬としては, 基本的にデンカ生研などで販売されている混合血清を使って凝集濁度を見る方法と, 関東化学などの様にレジオネラ抗体にラテックス粒子をつけて凝集を見やすくしたものがあります。特に後者は最近, カラーラテックスが用いられるなど, 凝集がより判定しやすくなるように工夫もされてきています。しかしながら, レジオネラ属菌は知られているものだけで41菌種もあり, 臨床的に最も問題となるL. pneumophilaを含めた代表的な5菌種だけでも23の血清型に別れており, そのどれもが疾患を引き起こす可能性をもつという多様性が検査を複雑なものにしています。質問にあります関東化学の取り扱っている英国Oxoid社の試薬キットは, 頻度の高いL. pneumophilaの血清型1の試薬, および2から14までの型混合ラテックス試薬, その他の主だったL. pneumophila以外のレジオネラ属菌の混合ラテックス試薬が含まれていますが, この「その他のレジオネラ属菌」の検査試薬の対象菌種は, L. longbeachae 1と2, L. bozemaniiの1と2, L. dumoffii, L. gormanii, L. jordanis, L. micadei, L. anisaだけですので, この他の環境中のレジオネラが検査対象となったときは反応しません。

 判定が不明瞭と言うことですが, 一般的な注意点および私の経験したことから回答しますと次のようなことがあげられます。

(1) 試薬キットのラテックス試薬が室温に充分戻っていない場合。冷蔵庫から取り出して直ぐに使用しますと, 試薬が冷えていて, 抗原抗体反応が弱くなることがあります。

(2) 検体から選択培地で菌株を分離して, かつBCYEα培地に生えて, 血液寒天培地に生えないことをあらかじめ確認しておくこと。レジオネラ属菌は上記に述べた通り多様ですので, 血清反応に比重を置き過ぎる (過度に依存する) ことは危険です。培地であらかじめ充分に分離培養して確認してから, 免疫血清反応を実施するようにします。

 検査の方法は, 厚生労働省生活衛生局監修「レジオネラ症防止指針」(ビル管理教育センター) が判りやすく, 簡便に書かれているので参考になります。

(3) もしコロニーの粘性が高ければ, 直接, ラテックス試薬と混和しないで, 一旦, 生理食塩水0.4 mlと試験管内で混ぜ, この懸濁液を5秒間ボルテックスにかけたものを検体として使うと粘性の影響などを受けにくくなります。

(4) L. pneumophilaの血清型1と9は, 群抗原を持つために交差反応が起きることがあります。2つ以上の血清型で“陽性”となったものは交差反応を考えてください。

(5) 新鮮なコロニーを用いる。基本的に, 抗原性のしっかりしているコロニーを用いることが結果をはっきりさせます。

(6) 判定までの時間を1分間以上おかない。拡大鏡などで観察しない。凝集は肉眼で観察しなければいけません。また, 1分間以上の反応は非特異的な反応 (例えば抗体同士の凝集) や蒸発により, 凝集が出て来て誤った結果を出すことがあります。

 環境材料からのレジオネラの検査は, 発育が遅くて抗原性が多様であることから難しい点が多いと思いますが, 基本的に分離培養をきちんと行って血清反応で確認することが,「急がば回れということになりそうです」。

(関東化学・久保 亮一)
【質問者からのお礼】
 お忙しいところ, 大変ありがとうございました。早速試して見ると同時に, レジオネラの特徴を再確認した後に, 検査方法について再度検討していきたいと考えています。
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