04/08/25
04/09/21 04/09/24
■ 滅菌条件を変えた培地を滅菌済み培地と呼べますか???
【質問】
 いつもこのページを拝見させていただき, 糧としております。私は生培地を製造する会社で品質管理を担当しております。現状は, 121度で15分間の高圧蒸気滅菌の条件で製造しておりますが, この条件を変えることは可能なのでしょうか??? 例えば, 飲料などの殺菌と同じように, 連続的に高温短時間 (例えば140度で5秒間など) の条件に曝した培地を, “滅菌済み培地”と呼んでいいものでしょうか??? 確かにD値, Z値という考え方では可能なのかもしれませんが, 成分の熱変性などにより, 本来の培地性能が維持できないのではないかと個人的には考えております。

 また, このような方法で調製された培地と, 従来の培地の同等性を証明することは現実問題として可能なのでしょうか??? お忙しいところお手数ではございますが, よろしくお願い致します。

【回答】
 滅菌済み培地において, 滅菌条件を変えることは可能かどうかということですが, ご存じのことと思いますが, 高圧蒸気滅菌条件については, 標準的な条件として日局 (第14改正) では121_124℃, 15分, USP XX (米国薬局方20版, 手元に最新版はなく, かなり以前の版であることをお断りします) では121℃, 15分以上とされています。また日局では滅菌を「物質中のすべての微生物を殺滅または除去することをいう」と定義されています。

 標準滅菌条件は, 上記のように考えられておりますが, 条件を変えても「滅菌」の定義が満たされていれば“滅菌済み培地”として何ら問題ないと考えてます。そこで条件を変える際には「滅菌」されていることのバリデーションを行う必要があります。方法としては, バイオロジカルインジケータ (BI: B. stearotermophilus), あるいはあらかじめ実施したバイオバーデンから得られた最も高い抵抗性菌を用い, 実際の製品を用いてD値を求め, 滅菌条件を設定し, 検証することが一般的です。このようなバリデーションに基づいた条件変更がなされた場合には, メーカーとして保証できる滅菌済みの培地といえます。

 またこのような方法で調製された培地と, 従来の培地の同等性を証明することが可能かどうかという点についてですが, 培地毎に設定された規格 (性状試験[色調, pH, ゼリー強度], 培養性能試験など) から総合的に判断することになります。試験菌株, 試験方法について公的に定められた培地であれば, 積極的にこれらを組み入れることにより, より客観性が高まりますので十分考慮すべき点と考えています。

(日水製薬・三品 正俊)
【追加質問】
丁寧な御回答を頂き, 真にありがとうございました。不躾ではございますが, 培地の同等性について追加質問させていただきます。
トリプトソーヤ寒天のような非選択培地の場合, そこに生育しうる菌種は膨大になると考えられます。121度, 15分とは異なった熱履歴を経た培地の培養性能を保証しようとした場合, “特定の菌種・菌株での検証をもって従来品と同等だと言えるのでしょうか???”検証されなかった菌種の中には, 生育性に差が認められるものもあるのではないでしょうか??? もちろん非選択培地といっても, すべての微生物がコロニーを形成する訳ではありませんが, 従来品では検出できていた菌が, 熱履歴を変えたことで検出できなくなるといったケースが起こり得るとしたら問題ではないでしょうか??? お忙しいところお手数ではございますが、よろしくお願い致します。

【追加回答】
 培地製品については, 選択培地であれ, 非選択培地であれ, その培地の性能が能書に記載されていますが, 当然ながらすべての菌種, 菌株を品質管理の対象としているわけではありません。その培地の使用される分野や検体の種類などにより, 科学的に充分, 常識的, かつ理論的な範囲で「一定の菌種, 菌株」について, 限定して, 製品仕様として品質管理を行っています。
ただし, 設定した「一定の菌種, 菌株」が適正か否かは, 定期的な市場モニタリングからの情報収集が必須であり, また菌株に依存する発育不良の事例や, 使用者のニーズの変化に伴う新たな発育性能を要求する菌種検出の要求など, 顧客からのクレームに対応するシステムを整備していることが望まれます。こうして設定された「一定の菌種, 菌株」による品質管理は, 設定された製品仕様を満たし, 顧客ニーズを満たしていると判断されますので, 培地の製造条件を変更する際には, これら「一定の菌種, 菌株」により評価, 判断することは理論的, かつ合理的あると考えます。当然ながら, 変更内容によっては, 市場モニタリングのシステムを利用して, 同等性の評価が必要になることは言うまでもありません。

(日水製薬・三品 正俊)


【質問者からのお礼】
 お忙しい中, 大変有り難うございました。市場モニタリングという考え方をしたことはありませんでした。勉強になりました。


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