05/07/20
■ MRSAの除菌方法について
【質問】
 はじめまして。インターネットの検索システムで, こちらのホームページにたどり着きました。私は, とある地域の病院で看護師として病棟で働いている者です。

 私の働いている病院では, 痰よりMRSAが検出されている患者の治療の一環として, 以前より「イソジン吸入」なるものがあります。生食 6 ml+イソジンガーグル 1 mlで調合した吸入液を2 ml/回×3回/day, 1週間継続してウルトラネブライザーで吸入してもらう・・・という方法なのですが, これは治療法として意義のあるものなのでしょうか???

 私の手元にある書籍では, OFLX点眼薬やABKを用いた吸入が有効とされていますが, イソジン吸入についてはまったく言及されていません。また, ネットなどで検索しても同様の状態です (1999年頃に「有効かもしれない」という趣旨の論文は出ていたようですが)。

 上記の書籍に「喀痰・唾液成分が分泌されている“切開部”にポビドンヨードは無効」と記されていましたが, これを (切開部ではない) 気道壁・粘膜にまで拡大して解釈してよいのかどうか確信がもてません。院内スタッフの中でも, 「イソジン吸入」の意義を問う声があるのですが, 長期間慣習として継続されているイソジン吸入を“止める”根拠が見つからず困っています。お忙しいところ誠に申し訳ありませんが, よろしくご教授願います。

【回答】
 鼻腔や咽頭の定着に関する除菌方法としていくつかの方法が報告されていますが, ここで少し整理しておきたいと思います。整理すべき項目は以下のようになります

(1) MRSAの鼻腔や咽頭への定着を除菌すべきか否か。また, 除菌するならばどんな場合か???

(2) 除菌するなら薬剤の選択は??? 投与経路は??? 治療効果は??? 持続期間は???

(1) 咽頭鼻腔への定着を除菌すべきか否か。除菌するならどんな場合か???

 これは非常に難しいのですが, まず患者の状態を把握する必要があります。日常的にすべての患者を除菌する必要はないと考えます。手術前の患者で術後に MRSA感染症を発生すると重篤になることが予想される場合や, 白血病や臓器移植患者で抗癌剤化学療法や免疫抑制剤により免疫能が極端に低下し, 発症すると重篤になることが予想される場合などが除菌の対象になります。すなわち, 患者の状態とMRSA感染症発症のリスクとの比較により, 実施するかしないかを決める必要があります。あるいは病院内で集団発生があり, その感染制御のために実施する場合なども考えられます。合併症がなく, ADLが自立している入院患者には必要ないでしょうし, 長期入院患者に日常的に実施することの意味があるのかは疑問です。よくあるのが, MRSA陽性では受け入れ先が拒否するので、他院への転院時に除菌するという状況ですが, これは受け入れ先の問題であり、MRSA陽性は受け入れ拒否の理由になりません。

(2) 薬剤の選択と投与方法について。効果と持続期間について

 まず, ハベカシンやバンコマイシンなどの薬剤の局所投与は保健適応外です。したがって, これらの薬剤の吸入や塗布は認められていません。イソジンについては, その濃度を考える必要があります。ご指摘の“イソジン吸入”は, [感染症学雑誌73: 429〜436,1999]に掲載された論文だと思いますが, その後の長期経過が記載されておらず, 一時的な効果であったのかどうかが不明です。イソジンに限らず, 多くの場合は4〜6週間後には再保菌することがあるようです。除菌ではなく, MRSAを培養の検出感度未満にしているというのが実情です。消失した訳ではありません。その論文では, ネブライザーで発生させるミストの粒子径やイソジンのヨード吸収のことも考慮して濃度が決定され, 除菌が試みられています。貴院で実施されているのは, イソジンガーグルであり, この論文のイソジン液を生理食塩水で希釈し, 1%液に調製しているという違いもあります。また使用するネブライザーも, イソジンは超音波ネブライザーではその分子構造が破壊される可能性も否定できません。したがって, 貴院で実施されているイソジンガーグル吸入の効果についてその詳細がわからず, その是非について結論することはできません。

 まとめますと, 患者の状態により, MRSAの除菌は考慮すべきであり, 一概に否定することはできません。また, 除菌方法については一定の見解がなく, EBMとしても十分なものは少ないので結論は出せません。

(京都府立医科大学・藤田 直久)


[戻る]