05/09/14
05/10/03
■ MRSAの除菌について
【質問】
 細菌検査室担当の臨床検査技師です。MRSAの除菌について教えて頂きたいのですが。

 当院と同系列の老健施設より肺炎疑いの患者さんが入院してきまして, 入院時の喀痰培養にてMRSAが (1+) 検出されました。幸い, MRSA肺炎ではなく, VCMなどの抗MRSA薬は使用していませんでした。しかし一度MRSAが検出された患者さんは, 院内感染を防ぐ意味で, 鼻腔のMRSA監視を検出された翌週より行います。退院の予定がありましてMRSAが鼻腔より (3+) 検出されていることが老健の看護師に伝えられ, “バクトロバンにて消してくれ”と言われたのですが, とくにMRSAの感染を起している状態ではなく, 健康状態もよくなってきて退院となった患者に対し, 敢て除菌をしなければならないでしょうか??? 老健からはそれぐらいの“やさしさ”があってもいいじゃないかという意見なのですが・・・私としては, 手術前の使用ならともかく, 施設へ帰すためだけの無意味な除菌は耐性化の心配があり, バクトロバンの使用を勧められません。しかし, 病院とは違い, あまり感染対策を理解されている方が少ないようなので, 看護師が施設での感染の広がりを心配する気持ちも理解できます。このような場合, どうアドバイスするのがよろしいでしょうか??? 当院の感染対策委員会にて, バクトロバンの使用を制限する形を採る方がいいのでしょうか??? ちなみに, 老健での感染対策は手洗いなどの感染対策がメインとなっています。

【回答】
 まず, 回答が遅くなりましたことをお詫び申し上げます。さて, ご質問の内容を整理させて頂きますが;

(1) MRSA患者の取り扱いについて
(2) 保菌患者の除菌について
(3) 老健施設での感染対策

この三点に分けて説明します。

(1) MRSA患者の取り扱いですが, まず老健施設と急性期病院とでは患者の取り扱い方は異なります。これはMRSAが伝播した際の他の患者への発症リスクに 依存します。通常の日常生活を送っておられる方を収容している施設でのMRSAはまず問題になりません。感染しても発症するリスクが極めて少ないからです。もともと黄色ブドウ球菌は健常人でも20〜50%程度保菌していると言われており, MRSAと言えども黄色ブドウ球菌ですから, 常在菌として存在し ていることになります。一方, 急性期病院では, 周囲に多数の易感染性患者が入院しており, 他の患者へ交差感染が発生した場合には, その後発症する危険性があります。他の患者がMRSA感染症を発症した場合, 原疾患を悪化させる危険性がでてきます。したがって, MRSA患者 (保菌や発症に関係なく) の状況や周囲の他の患者の状態で, 個室に収容することもありますし, 逆に感染しては困る人を個室へ収容する (逆隔離) することもあります。また周囲の患者の状況次第では, 総室でそのまま見ることもあります。

(2) MRSA患者の除菌については, ご指摘の通り, 不必要な除菌は是非避けて頂きたいと思います。個人的な意見ではありますが, “バクトロバンの適応は, 保菌患者がなんらかの侵襲的処置を行う予定があり, 発症すると予後に重大な影響を及ぼす危険があるとき”だと考えています。それも1クールのみにする。バクトロバンの添付文書上の適応はもっと広いのですが, 耐性出現は同一の人に複数回数使用することがリスクとなります。従って, 安易な除菌は避けるべきです。あなたのお考えを全面的に支持したいと思います。この患者様の場合は, 基礎疾患に慢性の呼吸器疾患があるのではないかと推測され, たとえ除菌したとしても, その効果は一時的ですので, 病状が改善しておれば, 除菌せずに退院して頂くのが良いと考えます。また, 鼻腔のMRSA3+は, 抗菌薬投与により, 菌交代現象で一時的にMRSAが増加した可能性もあります。

(3) 老健施設での感染対策は, 急性期病院と同じように, 標準予防策の実施ですが, これを徹底させることは並大抵ではありません。病院の看護師や医師とい えども, 明確に理解し, かつ適切に標準予防策が実行できる職員は10%程度ではないかと思っています。老健施設では, ヘルパーの方々や多くの感染対策に明るくない方々が多数おられます。その中で働く看護師さんの労力は大変なものかと推察されます。また費用の面で, 手袋も十分供給されていない施設が多いのも現状です。しかしながら, 標準予防策を徹底させるには, “教育と訓練の継続”以外にはこれを解決する方法はありません。

(京都府立医科大学・藤田 直久)


【質問者からのお礼】
 お忙しい中, 回答ありがとうございます。やはり標準予防策の徹底が感染対策の基本となるのですね。今後ともよろしくお願いいたします。


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