■ MRSA患者の集団隔離 | |
【質問】
ひとつ素朴な疑問があります。私たちの病院では, MRSAが確認された場合, 保菌者か発症者かを区別し, 集団隔離を行っております・・・しかし, 部屋数も限られており, 難しい部分もあります。この集団隔離では, 喀痰から検出されたMRSA患者と, それ以外の部位から検出されたMRSA (褥そうなど) の患者を別々に区別して部屋分けをしなければならないのでしょうか??? 看護師の考えは, 接触感染だから手を洗えば問題ないといいます。手洗いと教育が大事だという意見です。すなわち, 部屋分けする必要はない。あるいは, 部屋分けは厳しいという意見です。 逆に医師 (外科) は, 区別したほうが妥当という意見です。医師の言い分は, そこで院内感染が起こった場合, 責任問題として, 裁判沙汰になったら勝ち目はないという考えのようです。以前の会議で, 保菌者と術後の患者を同じ部屋にしたことでこの話が持ち上がりました。どちらが正しいという訳ではないと思いますが, いいアドバイスがあれば教えてください。お願いします。 【回答】
(1) MRSAの保菌患者と発症者は区別して隔離しなければならないか? (2) 検出された部位により部屋を分ける必要があるのか? (3) 保菌者と術後の患者を同室にしてよいか? まず, これらの3つの質問に回答する前に,「隔離」という言葉を整理しておきたいと思います。「隔離」とは, 英語ではisolation (アイソレーション) と言いますが, 感染源を空間的あるいは物理的に引き離し, 感染経路を遮断すること, すなわち感染源隔離です。とかく「隔離」というと, 個室に収容することをイメージしがちなのですが, 本当の意味は違います。例えば, 褥瘡からMRSAが出ていれば, この褥瘡部分をドレッシング材で覆えば, 物理的に感染経路は遮断できていますから, 感染源隔離はできていることになります。個室収容イコール隔離ではないことをまずご理解ください。 さて, (1) 保菌者と発症者を区別して隔離する必要はありません。本来, 隔離とは他の患者への感染を防ぐためですから, 既に感染している人を区別しても, 感染している訳ですから, 感染予防にはなりません。また, 保菌者を発症者から区別して発症率が減ったという文献はなく, 保菌からの発症は患者自身の問題で, 患者外の環境因子が影響するものではありません。発症時に治療するのであって, 決して保菌患者を治療してはなりません。 (2) 検出部位により部屋を分ける必要はありません。MRSA検出患者はまとめてひとつの病室 (集団隔離あるいはコホーティング) で管理すればよいかと思います。他の人へMRSAを伝播させないようにするということが重要です。 (3) 敢て保菌患者を術後の患者と一緒にする必要はありませんが, 創部がドレッシングで覆われていれば, 同室していても問題ないと思います。ただし, これらは, 手指衛生が確実に実施されていることを前提としているので, 看護師の意見も, 医師の意見も全面否定することはできません。隔離しても, 手洗いができていなければ, 当然ながら感染は拡大します。 ということで, MRSA検出患者はコホーティングするということ, 手指衛生を徹底すること (教育と訓練が必要), MRSA感染症のみを治療し, 保菌患者は治療しないことが肝要です。 (京都府立医科大学・藤田 直久) |