05/07/28
■ MRSA保菌者の入浴
【質問】
 老人施設で勤務する看護師です。循環式浴槽の大浴場において, MRSA保菌者の入浴順序を考慮すべきかどうか考えています。創や咳, 下痢などがなく, 排菌の可能性が低い場合でも, 保菌している以上“入浴は最後が望ましい”という意見をよく参考書などで見ます。接触感染を予防する観点からなら“他の人と同時に入らない”というのならまだわかるのですが, 何故「最後」なのかが疑問です。保菌者の入浴後に, お風呂場の椅子や洗面器, シャワーなどを浴室用洗剤で洗い, 湯で流し, 脱衣所はアルコール清拭した後, 続けて非保菌者を入浴させたとしても感染予防上問題になるでしょうか。

 また, 循環式浴槽 (自動塩素注入装置がついています) に保菌者が入った湯から, 非保菌者が感染するリスクについても教えていただけたらと思います。

どうぞ, よろしくおねがいします。

【回答】
 ご質問の内容は以下のように集約できるかと思います:
 (1) MRSA保菌患者の入浴時に最後にしなければならない理由
 (2) MRSA保菌者入浴後の対応方法
 (3) 循環式浴槽で感染する危険性

 ですが, 果たして入浴という行為で感染リスクが高まるかといえば, それほど高くないと思います。入浴という行為は“汚れを洗い流す”という行為ですから, それほど神経質になる必要はないように思います。

(1) 最後にする理由は, その後の処理に手間がかかり, 効率が悪いというだけの理由だと思います。もちろん感染のリスクが高くなるという理由もあるとは思いますが, 結核患者の外科手術をその日の最後の手術にするというのと, MRSA保菌患者の入浴とは本質的に異なると考えますし, 感染リスクも異なります。

(2) 従って「保菌者の入浴後に, お風呂場の椅子や洗面器, シャワーなどを浴室用洗剤で洗い, 湯で流し, 脱衣所はアルコール清拭した後, 続けて非保菌者を入浴させ」れば問題ないと思います。果たしてこれほどの処置が必要かどうかも議論となるかもしれません。看護師や介護士が行う日常的な看護の業務のほうが感染を拡げるように思いますが, 老健施設で標準予防策ができておれば問題ないと考えます。

(3) の循環式浴槽ですが, MRSA伝播に関与したという報告は知りません。個人的にはMRSA感染のリスクは極めて低いと考えます。それよりも, 塩素が注入されているから安全などと盲信していることのほうが危険ではないかと思います。機械は維持管理が確実にできていて初めてその効果を発揮するのです。それよりも, “レジオネラ菌”は大丈夫だろうかと思います。本菌はアメーバの中に寄生するため, 塩素では死にません。

(京都府立医科大学・藤田 直久)


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