05/08/04
■ MRSA対策について
【質問】
 初めまして。△▽県の◆●病院で検査技師をしています。さて早速ですが, 2点, 質問させてください。

(1) 特にMRSAがアウトブレイクした訳でもないのですが, 全職員を対象に鼻腔・咽頭のMRSA保菌を調査し, MRSAが陽性のスタッフは強制的に除菌しようとしています。確かに老人の多い病院ではありますが, そこまでする必要があるのでしょうか??? また, ムピロシンで副作用が出た場合, 病院が訴えられたりしないのでしょうか???

(2) 当院には, 気管切開の患者さんが半数以上を占める病棟があるのですが, さらにそのほとんどがMRSA保菌者です (ただし発症していない方がほとんど)。そのため, すべてのMRSA保菌者を隔離できずにいます。MRSAの感染を防ぎ, なおかつ限られたベット数を有効に使用できる方法はないでしょうか???

 最後になりましたが, いつも質問箱を興味深く拝見させてもらってます。先生方のお忙しい中, 私の質問に時間をさいて頂くのは心苦しいのですが, よろしくお願いします。

【回答】
(1) MRSA保菌調査の実施について
 経験的に, 病棟にMRSA患者がおり, その患者のケアをしていれば10数%の職員は鼻腔からMRSAが検出されます。これは無意識に, 手が鼻の部分を触っている可能性が考えられ, 患者がいなくなると保菌者はなくなります。そうすると, 仕事中は肩から上に手を挙げないことが重要になります。さて, 保菌調査ですが, 何を目的で実施するかでその意味合いが異なります。(1) 職員の教育啓発のため, (2) 集団発生があり, 職員が関与している可能性があり, その原因を突き止めるため。手洗いの頻度が減少しているので, 教育的に実施する場合が前者です。一方, 後者は, もし保菌者が見つかっても, 保菌者が本当にMRSAを伝播しているか否かは, 詳細な疫学調査をしないとシロクロをつけることは難しく, 大変だと思います。従って, 職員の保菌調査は, 個人的意見としては, 教育と感染対策を強化するきっかけとして使用するか, あるいはどの程度の保菌率があるのかを見るために, “個人名は匿名化し”実施する程度です。採取の仕方や, 採取時期 (ケアの状況) により、結果が異なることも予測されます。従って, 病院全体の保菌調査は“労 (費用も) 多くして効少なし”と考えます。

(2) MRSAを保菌する職員の除菌について
 個人的には“MRSA除菌反対派”です。理由は, (1) 除菌しても一過性であり, 永久的に除菌できない, (2) バクトロバンをきっちり添付文書どおりに塗ってくれ るかどうか保証がない, ためです。また, 先にも書きましたように, MRSA陽性者のみ除菌しても, 保菌者はいずれまたどこかの時点で保菌状態になる可能性もあり, また保菌調査をする, 除菌をするという“いたちごっこ”が起こる可能性があります。また, このようなバクトロバンの頻回使用はバクトロバン耐性のMRSAの出現を招く恐れもあります。除菌は, 手術などの侵襲的治療を実施する患者を対象にすべきで, 長期入院されている患者に対してはあまり意味がないように思います。

(3) MRSAを保菌する気管切開患者の隔離について
 既にご存知かもしれませんが, コホーティングといって, 同じ疾患をもつ患者を集めて感染対策をする, いわゆる“集団隔離”がこの場合, 適当なのではないかと思います。MRSAをもつ患者を大部屋に集めてしまうということです。隔離とは, 個室に入れることのみではありません。空間的に, 物理的に, 感染経路を遮断することを隔離 (isolation) と考えてください。例えば, 褥瘡からMRSAが検出されている人は, 創部をドレッシング材で覆うことで, 物理的に遮断できていますので, これも隔離 (感染源隔離) といいます。大部屋に保菌者を集めてしまうのも隔離です。MRSA感染が拡大するかどうかは、恐らく隔離よりも, 皆さん方のケアに依存します。手洗いをしているのか, 手袋やプラスチックエプロンを周囲環境や手をなるべく汚染せずに外すことができて, さらに廃棄できているかを今一度確かめてください。“MRSAは接触感染である”ことをもう一度考えてみてください。

 長々と書きましたが, 病院が何を目的に調査を実施するのか明確でないので, 推測で回答させて頂きました。患者に近い部分での感染対策 (手洗いや手袋の 外し方など) を再確認し, 徹底したほうがはるかに効果はあると思います。

(京都府立医科大学・藤田 直久)

【質問者からのお礼】
 大変分かりやすく, 丁寧な回答をありがとうございました。超一流の先生の生の意見を聞けたことに大変恐縮すると同時に喜びを感じています。実は, 私自身, 先生とほぼ同じ意見を持っていました。ですが, インターネットなどで調べても, なかなか納得できる回答にたどり着けず, メールさせていただきました。先生の意見を聞けて, 自分の意見に自信を持つことができました。本当にありがとうございました。これからもお身体に気をつけて, 益々のご活躍されることを心より祈っております。


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