06/11/13
07/02/06
■ 肺炎マイコプラズマの分離
【質問】
 お世話になります。私は●●大学大学院医学系研究科で保健学を専攻しております■■と申します。現在, PCRでM. pneumoniae陽性であった検体 (咽頭ぬぐい液) から, PPLO寒天培地を用いてM. pneumoniaeの検出を試みているのですが, 雑菌の混入により, 鏡検してもコロニーの区別がつかず検出できません。また, 周囲にM. pneumoniaeを実際に培養している施設がなく, 確かな検出方法が分かりません。培養はDifcoTM PPLO Agar (BD) にBBLTM Mycoplasma Enrichiment without Penicillin (BD) とPenicillin G (最終濃度 500 units/ml)またはPenicillin Gの代わりにAmpicillin (最終濃度200μg/ml) を加えた2通りの培地で, 37℃で好気的に行っております。そこで, (1) 培地中にはThallium AcetateとPenicillin G もしくはAmpicillinが含まれているにもかかわらず, 雑菌の増殖が阻止できないのは何故かということと, (2) 実際に培養を行っている現場では, どのような手順で進められているのかということを教えていただけないでしょうか。また, その他, 検体の採取, 保存から培養に関して注意すべき点がありましたら併せてご指導願えれば幸いです。お忙しいところ申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いします。

【回答】
 Mycoplasma pneumoniae の培養はどこの検査室でも実施している訳ではなく, 情報の入手に苦慮されていることと思います。以下に培養の“コツ”について私のささやかな経験をお示しして参考にして頂ければと思います。

 Mycoplasma Enrichiment without Penicillin (BD) を適正に使用されていると思いますが, 添加すべき「penicilin G (PCG)」や「ampicillin (ABPC)」に問題はないでしょうか。添加されている PCG の最終濃度 500 units/mlは低過ぎるように思います。少なくとも最終濃度を 1,000 から 10,000 units/ml にされてみたら如何でしょうか。また,「雑菌の混入」と記載されていますが, この「雑菌」は何でしょうか??? ただ単に「雑菌」として扱うのではなく, おおまかであっても同定を試みて下さい。集落の特徴, グラム染色所見などの情報があれば, 少しは有益な助言が可能かもしれません。「雑菌」では, 真菌なのか, 細菌なのかさえも解りません。そして, この「雑菌」は何種類もあるのかもしれませんが, 作成して使用する培地にその雑菌を接種してみて下さい。発育が確認されるようでしたら, 使用培地自体の問題が確かになります。培地の問題になれば, 選択剤として含有させる抗生剤 (PCGやABPC) の添加量以外にも気をつけるべき点があるかもしれません。以下に列挙してみますので参考にしていただければと思います。

(1) 培地に選択剤として含有させる薬剤, 特に「penicilin G」や「ampicillin」は水溶液にすると失活し易いので, 薬剤溶解液は作成時に調整する。これが第一のコツです。

(2) 培地は作成後に何日か経過したものは使用せず, 作成直後の出来る限り新鮮な培地を使う。これが雑菌回避のための第二のコツです。

(3) 綿棒で採取した咽頭ぬぐい液は, 綿棒を培地に円を描くようにゆっくり塗布していく。決して, 培地の一部に濃厚に塗布してから白金耳を用いて広げることはしないことが第三のコツです。

(4) 培養は 35℃ で好気的に行うが, 必ず湿潤容器に入れて培養する必要があります。湿潤容器が準備出来ない場合は, 水分 (滅菌水など) を含ませたガーゼや脱脂綿などで工夫して, とにかく培地の乾燥を避けることが第四のコツです。

(5) 培養後四日目以降は毎日培地の裏面から, 顕微鏡 (100倍の弱拡大) で観察を行うが, 一週間以内に出現する集落は M. pneumoniae 以外の Mycoplasma 属菌である可能性が高い。

(6) M. pneumoniae は発育日数と集落所見からほぼ同定が可能で, 初代分離集落は中心部が大きく, 辺縁部が狭い nipple 状集落が多く, 辺縁部が広い fried egg 状集落の出現は少ないのが特徴です。

(7) M. pneumoniae の集落サイズは, 培養日数により多少は異なるものの, 概ね 0.2〜0.6 mm で, M. pneumoniae か否かについて判断に迷う場合は, ニワトリ赤血球凝集試験が簡便な検査法として推奨されます。

 以上ですが, 参考にして頂ければ幸いです。

(信州大学・川上 由行)

【質問者からのお礼】
 以前, M. pneumoniaeの培養について質問させて頂いた●●大学の■■と申します。丁寧に回答していただき, 大変参考になりました。ありがとうございました。お返事をいただいてすぐに, 御礼のメールを送らせて頂いたつもりでいたのですが, エラーにより上手く送信できていなかったようです。御礼が遅れまして, 大変申し訳ございませんでした。

 ご指摘のとおりに, Penicillin Gの濃度を10,000U/mlに上げ, またさらにAmphotericin B を5μg/ml となるように加えることで, 咽頭の常在菌の増殖を抑えることができました。培養についてですが, やはり大変難しく, Egg-Yolk mediumなど色々と試してみたのですが, なかなか上手くいきません。もしかすると検体の保存などに問題があるのかもしれません。臨床検体より, Real-time PCRと並行して行っているため, 検体採取からそういった点にも注意を払い, これからも根気強く頑張っていきたいと思っております。今度ともご指導願えれば幸いです。


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