05/11/22
05/11/24
■ 何故, ボツリヌスは土壌中で生きている
【質問】
 質問箱はいろいろ参考にさせていただいています。清涼飲料の品質管理をしているものです。

 清涼飲料の危害病原菌で耐熱性の高いものはクロストリジウム属のボツリヌスなどであると言われていますが, このような危害微生物はほとんど“偏性嫌気性菌”です。土壌からの汚染がほとんどであると言われていますが, 通常, “偏性嫌気性菌の場合は空気中では生きられないということですが, ある程度は生きられるのでしょうか???” それとも, たまたま空気の薄い条件が重なって混入しなければ危害の可能性がないのでしょうか??? 微生物は小さいから, そういった条件が何らかの形でそのような条件ができやすいのでしょうか??? 衛生上の考え方として知りたいと思っております。

【回答】
 偏性嫌気性細菌とは, 寒天培地のような培地の表面で増殖させようとした場合に, “酸素が高濃度にある環境では子孫を作れない (増殖できない) か, 死滅してしまう菌”と理解して下さい。「偏性嫌気性菌は生きられない」という表現は正確ではありません。細菌の中には2つの形態をとることができるものがあります。栄養型の細菌と芽胞の形の細菌のふたつです。あなたが問題にしているボツリヌス菌 (クロストリジウム・ボツリナム) は, この2つの形態をとれる細菌です。栄養型の状態のボツリヌス菌は, 酸素がある環境では子孫を増やせないため芽胞に変身します。このように芽胞となったボツリヌス菌は, 空気のような酸素が20%ほどある環境でも半永久的に生存し続けることができます。大地のごく表面の紫外線や酸素の届きやすい水気のない土の中ではボツリヌス菌はこのような形態で存在します。しかし, 大地の表面より少し下, 例えば沼の泥の中数十センチに存在する酸素のほとんどない (たとえ酸素が少しあっても酸化還元電位が極めて低い) 環境では, 栄養型の細胞にもどり, 子孫を増やします。もし, 土や土埃の中の芽胞が食品や飲料水の中に紛れ込んだとします。その食品が発酵食品のように, ある種の細菌が増殖した場所は酸素が薄い環境となります。缶詰め, 壜詰めのように食品の保存のための容器内はきわめて嫌気的です。従って, 条件が整えば, 芽胞が栄養型の細胞に変身し (発芽といいます), 子孫を増やすことが可能になるのです。芽胞が発芽して子孫を作るときに“毒”が放出されるのです。

 さて, 芽胞を作らない嫌気性菌があることを先に言いましたが, これらの菌は概して酸素に敏感なものが多く, 平らな培地の表面に置かれると, 数秒間で死んでしまう菌, 数十分間生存できる菌, 数日間生存できる菌があります。しかし, いずれも子孫を作ることはできません。しかし, 口腔や鼻腔の中のように酸素がいつも通過する場所でも, 例えば舌の表面の粘膜のひだの奥のような環境 (微細環境) では, 芽胞のない嫌気性菌でも生存可能であるばかりでなく, 増殖していることを知っておいて下さい。

(岐阜大学・渡邉 邦友)


【質問者からのお礼】
 いつもお世話になっております。可能性のある具体例も示され, わかりやすい回答をいただきありがとうございます。どのようにして入る可能性があるのかという理論的根拠がかかれている書物を何冊か見たのですが, 見当たらなかったので助かりました。ありがとうございます。


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