06/07/14
06/07/21
Neisseria cinereaが血液培養から
【質問】
 はじめて質問させていただきます。当院の患者さんから血液培養にてNeisseria cinereaが検出されました (ここ数年来, はじめて経験する菌です)30才代の男性で, 中国広東省へ旅行してきた後, 発熱, 下痢が続き, 敗血症で入院となった患者さんです。検査所見は炎症所見が強く, DIC傾向で, 便培養 (), 肺炎所見 () でした。尿培養は未検査です。患者さんは旅行先でかき氷を食べたとのことです。ナイセリア属の一種で, 常在菌で日和見感染を起こす菌とのことですが, 関係する文献が少なく, 基本的な質問で申し訳ありませんが, 下痢と検出された菌の関連性があるのか否か, もしくは他の因果関係があるのか質問します。よろしくお願い致します。なお、微生物検査は外部委託です。

【回答】
 Neisseria cinereaは,主に鼻咽頭などの上気道に常在する細菌で,通常は感染症の原因となることは稀とされています。報告が多いのは1才以下の小児,特に新生児における結膜炎などの眼科領域の感染症です。そしてそれらの多くは,おそらく出生時に母親から獲得したものと考えられています。その他,免疫抑制を受けた患者のリンパ節炎,腹膜透析患者の腹膜炎,透析患者の菌血症,エタノール乱用者の菌血症,あるいは麻薬常習者における心内膜炎など, ほとんどの症例が基礎疾患を持つものばかりです。ご質問の患者さんは敗血症で入院になったとのことですが,検出菌の起炎性については陽性ボトル数や検出時間なども加味して慎重に判断する必要があると思います。免疫能が低下するような基礎疾患や治療歴などはなかったのでしょうか??? 患者さんの免疫能が正常であれば,一過性の混入ということも考えられます。例えば抜歯やう蝕(虫歯)なども口腔内細菌が血流中へ侵入する要因となります。小児においては中耳炎と肺炎の患者での菌血症も報告されています。

 下痢との関連性についてのご質問ですが,腸管感染は文献的には8歳男児の直腸炎の報告があるのみです。N. cinereaを含めNeisseria属レベルで見ても腸管感染は稀であり,今回の患者さんの下痢は,他の下痢原性微生物が原因ではないかと推測されます。おそらく受診時には病原体が消失,または検出限界以下まで減少していた可能性もあります。あるいはウイルス感染なども推測されます。引き続く下痢により体力が奪われた状態で,本菌が血中へ侵入したとも考えられます。

 ただN. cinereaは細菌学的にはNeisseria gonorrhoeaeとの鑑別が難しいとされ,またPCR検査においても淋菌用の試薬と交差反応を示すことが知られています。しかも, 淋菌だと血液培養で陽性となる場合もあります。淋菌と誤同定されている事例も存在するのではないかと思われます。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


【質問者からのお礼】
 お忙しい中, 回答頂きましてありがとうございました。Neisseria cinereaは, 血液培養の陽性ボトル数1本 (2セットの内の1セット中の動脈血好気ボトル) から検出されました。その後, 入院中の検討でDM (糖尿病) の存在が強く疑われました。血液培養は外注先に確認したところ, 日水製薬の全自動血液培養装置で検査しているとのことでした。その後, 本症例の患者さんは第3世代セフェム系 (CTRX) が著効して, 入院後1週間ほどで退院となりました。検出菌における因果関係含めて, 様々な観点からご教授頂き, 本当にありがとうございました。


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