04/08/16
■ 濃縮リンゴ・ジュースに芽胞形成菌が・・・
【質問】
 中国から混濁タイプの濃縮リンゴジュース (4倍濃縮) を輸入し, 黄色ブドウ球菌を検査しました。結果は陰性でしたが, 培地にグラム陽性桿菌 (芽胞形成菌) が150個/ml見つかりました。ジュース類なので, 嫌気性菌の可能性はないので, バチルス属のセレウス菌の検査を依頼しましたが, 結果は“陰性”でした。

 ユーザーは耐熱性菌なので, かなりの高温を長時間かけなければならないが, ジュースの風味も保たなければならない。もし菌が一個でも残っていれば信用問題になるので使えないと言っております。質問は: 

(1) 一般の芽胞菌はどんな悪さをするのでしょうか???
(2) 輸入した貨物は積み戻さなければならないでしょうか???

以上, 周りに菌類に関して相談する人もいないので厚かましく相談させてもらいました。宜しくお願いいたします。

【回答】
 ジュースの中のグラム陽性桿菌についての質問でした。この質問を担当することになりましたが, 医学細菌学の専門の小生のこれまでの知識ではどうお答えしてよいかわかりませんでした。質問をいただき, 勉強させていただきました。

(1) 一般の芽胞菌はどのような悪さをするか???

 芽胞菌というと医学の分野では, 御指摘のように嫌気性菌のクロストリジウムと好気性菌のバシラスを考えます。どちらにも医学的に重要な菌種とそうでない菌種があります。食中毒の原因となる菌のチェックをされています。医学的に重要でない菌種であると考えられます。腐敗菌と考えられます。また嫌気性菌にも腐敗菌はありますが, 今回の場合, 嫌気的に包装, 保存される類いではないので, 嫌気性菌の重要性は低くなります。

 さて, 腐敗がおこるためには, その菌がその食品飲料水中で増殖することが必要になります。Bacillusの中に, 今回のジュースのような酸性下で増殖する菌種があるのだろうかと疑問をもったからです。ジュースはパスツリゼーションという加熱処理をしているはずです。この加熱処理に抵抗性の細菌の中に, 酸性条件下で増殖する菌があるかどうかが問題です・・・ありました。最近問題になっているアリシクロバシラス・アシドテレストリス (Alicyclobacillus acidoterrestris) 菌がありました。アリシクロバシラス属のアシドテレストリス菌は, ジュースのような酸性環境下で増殖する能力があり, しかも増殖すると正露丸のような臭い (グアイアコール) を産生するようです。消費者がこの臭いを感じるようでは大きな問題になります。この属にはグアイアコールを産生しない菌種と, 産生する菌種があるようです。つまり, ジュースの製造, 輸入, 販売をする場合には・・・TABがいるのかいないのか??? それがアシドテレストリス菌ではないかどうか??? これらの菌が増殖しないような対策がたてられているか??? 出荷時にジュースの中にグアイアコールが作られていないかどうか??? などを検査するのが必須となるようです。この菌の検査法などについては, 果汁協会が発刊している会報を参照して下さい。

(2) アシドテレストリス菌は土壌中の菌です。国内で適切に廃棄することが可能と思われます。一度に大量を下水に流すことは問題です。

(岐阜大学・渡邉 邦友)
【質問者からのお礼】
 ご丁寧にありがとう御座いました。APIによる同定検査ではアリシクロバシラス・アシドテレストリスは発見されませんでした。しかし, 品質が悪いと言うことで相手国に積み戻すことを決定しました。此処に重ねてご丁寧な返事に対し心よりお礼申し上げます。
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