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05/10/13
■ 乳汁から植物由来のグラム陰性桿菌
【質問】
 氏名は●●といいます。職業は▲▼県家畜保健衛生所において獣医師をしています。細菌検査を担当させてもらっています。

 いつも参考にさせていただいております。私は, 家畜衛生に携わっている者ですが, 最近しばしば植物由来の細菌が乳汁検査をしていて分離されてきました。Burkholderia cepaciaAgrobacterium radiobacterなどがよく分離されてきます。できればそれらの細菌について教えていただければ幸いです。

 また, それらの細菌の同定については, 羊血液寒天培地を用いて菌分離をした後に, オキシダーゼ試験やカタラーゼ試験, 鏡検・グラム染色を施し, APIシリーズを用いて同定しています。初めは, 腸内細菌ではないかと疑いDHL培地などにも発育させていましたが, 生えてこないので, 結局API 20EまたはAPI 20NEを用いて同定しました。これらの菌はすべて“グラム陰性の桿菌”だったのですが・・・・・よろしくお願いします。

【回答】
 Agrobacterium (Rhizobium) radiobacterBurkhokderia cepaciaも植物寄生性の細菌です。

 Burkhokderia cepaciaは, その名称の示すとおり, “タマネギの根”に寄生する植物病原体として知られています。いずれも腸内細菌ではなくPseudomonas属などの菌とともにαPROTEOBACTERIAに分類される菌群です。乳牛の場合, 乳汁からは(特に乳房炎を起こした場合は) Staphylococcus aureusStreptococcus agalaciaeなどといったグラム陽性球菌に混じって腸内細菌科の菌がしばしば分離されますが, 最近ではαPROTEOBACTERIAに分類されるこうした菌群も結構分離されるようです。これらの菌は環境 (植物寄生を含む) 中に広く存在するため, 畜産環境において分離されることは当然考えられます。ご質問からだけでは判断できないのですが2つのケースが想定されます。ひとつは, 乳房に付着 (一部は乳汁中に混在) した菌を分離した場合, 他のひとつは貯蔵タンク中における菌の混入です。Agrobacterium (Rhizobium) radiobacterBurkhokderia cepaciaによる乳房炎事例が存在するかどうかはよく分かりませんでした。もし, これらの菌による牛の感染事例があるとすれば, 細菌側の因子よりもむしろ生体 (牛) 側の諸要因が問題になるのではないかと思います。実際にヒトや小動物では, これらの菌による感染症事例が報告されており, ヒトでは院内感染や免疫力が低下した場合の日和見感染症の原因菌として知られています。Burkhokderia cepaciaはクロルヘキシジンに抵抗性を示す株も多く, 多くの抗生物質に抵抗性を示すのも特徴的です。大腸菌群をはじめとする環境性細菌による乳房炎, 特に潜在性のものは増加傾向にあり, これは乳牛の飼育環境の問題と密接に関連しているように思われます。いずれにせよ, 牛全体の環境衛生はじめ, ミルカーなどの正しい取り扱いを含む搾乳衛生の向上が重要なのではないかと思います。

(宮崎大学・後藤 義孝)

【質問者からのお礼】
 今後の細菌検査に参考にさせていただきたいと思います。今でも, やはり植物性由来の細菌が採材されてきますが, 環境面での衛生対策をしっかりするように指導しています。今後ともよろしくお願いします。


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