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【質問】
PasteurellaとHaemophilusとActinobacillusの鑑別点について, 分かりやすい方法を教えていただきたいのです。色々な鑑別方法について独学でやっています。
Haemophilusにつきましては, 血液寒天の好気培養よりチョコレート寒天の炭酸ガス培養のほうが良好に生育する,
あるいはコロニー形態が大きい点や衛星現象など。また, 市販の同定キットなどを使用することにより, かなりわかりやすく検査の流れを作れてきたと思います。
Pasteurellaについても, 詳細な生化学的性状やコロニー形態や, もちろんグラム染色などにより, さらに分かりやすくなってきました。
ところが, 調べてもなかなか資料が見つからず, どうにも分からないのが“Actinobacillus”の鑑別点やコロニー形態,
コロニーの写真です。「Color Atlas of Medical Bacteriology」という本を購入してみました。コロニーの写真はありましたが,
英語に手間取りなかなか解読できません。血液寒天培地をさらに2〜3日ほど培養し続けて生育してきた小さなコロニーをターゲットとする等々の数少ない文献を元に,
独学でやっていますが, よく分かりません。
長年臨床検査技師として病院で働いていた為に, 人の病原菌はかなり経験をしていたつもりでしたが, 動物が相手となるとターゲットの菌がかなり異なり随分難しい状況が有ります。この3菌種の確実な鑑別同定方法を教えてください。よろしくお願いいたします。
【回答】
まず質問の中で, “長年臨床検査技師として病院で・・・動物が相手となるとターゲットの菌が異なり・・・”と書かれていますが,現在は動物関係の検査をされているのでしょうか???。ご質問のように,
ヒトと動物とでは検索対象となる菌種が異なり,検査法自体も違ってくると思います。ここでは病院に勤務されているということを前提に回答させていただきます。
Pasteurella属,Haemophilus属およびActinobacillus属はともにPasteurellacae
(パスツレラ科) の細菌であり,形態 (小桿菌または球桿菌) やその他の性状において共通点は多くあります。この中でHaemophilus属はチョコレート寒天培地に発育し,羊血液寒天培地には発育しない
(ただし馬やウサギ血液寒天には発育する) という点で,他の2つの菌属とは鑑別できます。Pasteurella属は血液寒天およびチョコレート寒天に発育し,マッコンキー寒天には発育しないという点で,Haemophilus属やその他のグラム陰性桿菌
(腸内細菌やブドウ糖非発酵菌など) と区別できます。ただし, ヒトから分離されることの稀なActinobacillus属については,ご質問のように資料が少なく,確実な鑑別同定となると難しい問題です。一般的には発育が非常に遅く,
培養は極めて困難であると言われています。3つの菌種の鑑別性状の一例を示します。
Pasteurella属,Haemophilus属,Actinobacillus属の鑑別
菌属(種)
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粘着性集落 |
マ
ッコンキ| |
寒天での発育 |
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炭酸ガス要求 |
硝酸塩還元 |
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オキシダ|ゼテスト |
カタラ|ゼテスト |
インド|ルテスト |
尿素分解 |
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ブドウ糖分解 |
乳糖分解 |
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A.actinomycetemcomitans |
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その他のActinobacillus属 |
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Pasteurella属 |
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Haemophilus
属 |
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d : 菌株により異なる (新編臨床検査講座22 微生物学・臨床微生物学より)
ヒトの口腔内に常在し,稀に病原性を示すことのあると言われるActinobacillus actinomycetemcomitansは,
Pasteurella属と同じく血液寒天培地に発育し,マッコンキー寒天には発育しないと記載されていますが,血液寒天で2_3日培養しても微小集落を形成する程度であると言われています。鑑別表を見ても,
菌株により不定な性状が多く, 鑑別は難しいと思いますが,この中で他菌属と最も異なるのは“粘着性集落”を形成する点であると思います。固形培地では集落が寒天面に固着し,
液体培地では顆粒状に発育し,培地の混濁はなく,試験管の底または管壁に付着すると言われています。ですから血液寒天を用いて, 炭酸ガス培養で2_3日あるいはそれ以上培養し,発育した微小集落の中から粘着性のある集落を探し出すのがActinobacillus属鑑別の最初のステップになるかと思います。質問者は同定キットを使用されているとのことですが,市販のヘモフィルス属・ナイセリア属用の同定キットの中には,Actinobacillus属に含まれる8菌種
(ヒト検体から分離される3菌種とヒト以外から分離される5菌種) が解析プロファイルに記載されているものもあります。培養で検出された疑わしい集落をそのような同定キットで検査してみるという方法もあります。ただし稀な菌種ですから,結果にどの程度の信頼性があるかは,キットの結果だけではなく,
菌形態や集落形態または分離した材料 (ヒトまたは動物) などの情報を含めて総合的に判断する必要があると思います。可能であれば, ATCCなどの標準菌株を購入して,
実際に自分の目で菌形態や集落形態を観察し,同定キットでの色調変化などを確認しておくことが最も近道であると思います。
(公立玉名中央病院・永田 邦昭)
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