04/10/18
Pasteurella multocida の同定について
【質問】
 はじめまして。○×大学獣医学部5年の学生です。△▽学教室に所属しており, 細菌の勉強をしています。どうぞよろしくお願い致します。

動物由来 (犬・牛) のPasteurella multocidaを同定する機会が大変多いのですが, 生化学性状が非常に曖昧で (特に糖分解能), いつもすっきりしないままです。文献や資料を調べてみても, それぞれで陽性or陰性が一致せず, 何をもってP. multocidaだと言い切って良いものか悩んでいます。インドール陽性・硝酸塩還元能陽性・臭い・コロニーの色しか頼るものはないのでしょうか??? どうかヒントを下さい。もし, PCRを用いるのが最も確実なのでしたらプライマー配列も教えて頂けると助かります。また, 生化学性状においてP. multocidaと間違えやすい菌がありましたらそれもお教え下さい。よろしくお願いします。

【回答】
 Pasteurella multocidaHaemophilus influenzaeと同じパスツレラ科に属する細菌であり,形態 (球桿状または短桿状の小桿菌) や集落の臭気などは良く類似しています。しかしP. multocida がチョコレート寒天および血液寒天培地でともに良好に発育するのに対してH. influenzaeは血液寒天では発育しないか,極度に発育が悪くなります (羊血液では非発育)。これが鑑別点です。また腸内細菌やAcinetobacter属も類似した集落を形成することがありますが,P. multocida はグラム陰性桿菌用のドリガルスキー改良培地 (BTB乳糖加寒天培地) では発育しないか,もしくは微小な集落しか形成せず,マッコンキー寒天培地には発育しません。腸内細菌やAcinetobacter属は両培地に良好に発育します。チョコレート寒天,血液寒天およびマッコンキー寒天 (またはドリガルスキー改良培地) での発育性を比較することで,類似する他菌属との鑑別は可能です。

 ご質問の糖の分解能についてですが,P. multocida は糖を分解して酸を産生するまでの時間が遅く,明確な発色までに時間がかかる傾向があります。例えばTSI培地に接種して1日目では斜面部周辺のみが黄変し,2日目になってやっと高層部全体が黄変することがしばしばあります。文献的にはglucose, galactose, mannose, sucroseを分解し,”48時間以内”に酸を産生するとされています。糖分解の判定については注意が必要であると思います。また大部分の菌株はmannitol, sorbitol, xyloseも分解するとされますが,イヌやネコからの分離株は分解しないと言われています。可能であればATCCの標準菌株を入手して,各試験の反応性 (色調など) を自分の目で確認し,比較しながら同定することをお勧めします。

 PCR法につきましては,診断法というよりもむしろ疫学的調査に用いられています。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


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