05/12/02
■ Rプラスミドと薬剤耐性
【質問】
 こんにちは。はじめて質問させていただきます。今臨床検査技師の勉強をしているのですが, “Rプラスミドによって薬剤耐性菌が出現する過程”がよく理解できません。教えてください。

【回答】
 臨床検査技師を目指して勉強中の学生さんからの質問ですが, その質問の意図するところが判然としません。

(1) “Rプラスミド”を獲得する (接合伝達の) プロセスについての質問でしょうか???
(2) “Rプラスミド”そのものが, どのようにして出現したのかについての質問でしょうか???
(3) “Rプラスミド”がどのようにして薬剤耐性という性質 (形質) を宿主細菌細胞に与えるのかという質問でしょうか???

 ご自分では質問の内容が判っているつもりでも, その内容を正確に伝えることは難しいものです。あなたが目指している臨床検査学は, サイエンスの一分野です。文学的な表現は不要ですが, 誰が読んでも正確に伝える書き方はとても大切なことです。書いた後に, 読み手の立場になって客観的な眼で読み直してみることが大切だと思います。

 いきなりこんなことから書き始めてしまいましたが, ご容赦願います。

 さて, 貴方の質問ですが, 間違っていたらご免なさい。質問は, (3) の“Rプラスミド”がどのようにして薬剤耐性という性質 (形質) を宿主, つまり別の細菌細胞に与えるのか??? ということだと思いますので, 早速に簡潔に答えます。

 R因子 (Rプラスミド/薬剤耐性プラスミド) などと呼称されていますが, 薬剤耐性プラスミドの種類は多く, 1種類の薬剤に対する耐性のみ与える単剤耐性のもの, 複数薬剤, 時には10種類以上もの薬剤耐性を与える多剤耐性プラスミドも知られています。接合伝達能をもつものや, 接合伝達能をもたないものも現在では数多く知られています。また, 1つの細菌細胞に複数の薬剤耐性プラスミドが保有されていることも稀ではありません。

 さて, 質問の「“Rプラスミド”がどのようにして薬剤耐性という性質 (形質) を宿主細菌細胞に与えるのか???」ですが, 耐性形質を宿主細胞に与える方法にはいくつかが知られています。

(1) 薬剤の化学構造の修飾による不活化
(2) 薬剤の加水分解酵素などによる不活化
(3) 薬剤の細胞膜透過性の低下による耐性化
(4) 薬剤の排出機構による耐性化

の4つが主たる耐性形質の発現機構です。(1) については, 例えばアミノグリコシド系薬剤のアセチル化, リン酸化, アデニリル化が特によく研究されています。これらの酵素を産生することが出来る遺伝情報が, プラスミドDNA上にコードされていて, 形質発現によりこれらの酵素 (アセチルトランスフェラーゼ/フォスフォトランスフェラーゼ/アデニリルトランスフェラーゼ) が産生されているのです。また, (2) については, βラクタム系薬剤のβラクタム環の加水分解酵素 (βラクタマーゼ) による開裂, また (3) については, キノロン系薬剤において知られております。また, (4) については, テトラサイクリン系薬剤で知られています。さらに, これから勉強されると思いますが, プラスミド性 Van B型の VRE (vancomycin-resistant enterococci) におけるグリコペプチド耐性のように, 上述のどこにも属さない耐性機構もありますし, これら以外にも多くの耐性機構が解明されています。また, 今後も新たな耐性機構をもつ薬剤耐性プラスミドが見い出されて行くことと思います。

 いずれにしても, 薬剤を壊す/薬剤を入れない/薬剤を排出する等々といった仕事をするために必要な遺伝情報が, 薬剤耐性プラスミドDNA上に書き込まれていて, その遺伝情報がきちんと形質発現して, 初めて「薬剤耐性」という形質を宿主細菌細胞が獲得することになるのです。

(信州大学・川上 由行)


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