04/08/24
04/08/31
■ 緑膿菌のコロニーの色が変化した
【質問】
 はじめまして。TSAの斜面培地で緑膿菌を保存しているのですが, モルトン栓からゴム栓に変えたらコロニーの色が緑から無色〜白になってしまいました。これは緑膿菌が好気性であることと関係あるのでしょうか??? また, 白色になったコロニーの増殖能力やプロテアーゼやエラスターゼの活性は低下するのでしょうか??? 教えてください。

【回答】
 結論から言いますと関係があります。P. aeruginosaは好気性菌で臨床材料より検出される菌株の多くは, pyoverdin (青色色素) と水溶性のphenazineが一緒に産性された時に明るい緑色 (pyocyanin) として確認されます。菌株によってはpyorubrin (赤色), pyomelanin(茶色)の水溶性色素も産性されます。しかし, これらの色素は嫌気環境では産生されませんので, 今回はモルトン栓 (通気性) からゴム栓に替えたことで, 菌の分裂増殖によって試験管内の酸素が消費され, 嫌気環境に近い状態になって色素産生には適さない環境になったためと考えられます。色素非産性の菌株を好気環境で再培養すれば, 色素産性すると思います。確認して下さい。細菌の色素欠損は遺伝型 (genotype) の変異によっても起ります。しかしgenotypeの変異があっても表現型 (phenotype) に必ず変化が現れるとは限らず, 変化が現れたり, 現れなかったりします。色素産生能の変化はgenotypeの変異なしに環境因子 (今回の事例も入ると思います) によっても起ります。臨床細菌検査でよく経験することではSerratia marcescensでの色素産生があります。S. marcescensは通常, 室温 (25_27℃) で色素を産性しますが, それ以上の温度では色素産生をしません。これは色素産生の遺伝子をもつものの, この遺伝子はある温度でのみ発現されるからです。このことから, 今回の色調変化は環境因子によるもので, 遺伝子変化ではないと考えられるため, 増殖能力, プロテアーゼ, エラスターゼの産生能には影響しないと思います。

 今回はTryptic Soy Agar (TSA培地) での色素変化で, 色素確認試験の質問ではありませんが, P. aeruginosaの色素産生能は使用する培地の種類によって色素産生能が異なりますので関連して記載します。P. aeruginosaの色素産生能はペプトンに左右されます。Pyoverdinの産生増強にはBacto peptone (Difco), pyocyaninの産生増強にはProteose peptone No 3 (Difco)で色素産生が増強されます。

 最後にこれも直接質問とは関係ありませんが, TSA培地の斜面で菌株を保存していると記載されておりますが, TSA培地は比較的, 高栄養培地です。微生物は限られた栄養環境では代謝速度 (増殖速度) を調整して適応します。低栄養培地では代謝と発育速度は遅延しますが, 増殖は可能です。菌増殖は培地環境の条件が良好であれば, それだけ早くなります。つまり増殖が早いと, それに伴って死滅する速度も早いことになります。ですから長期に保存する目的であればTSA培地で保存するのは不向きです。斜面培地で保存する方法も乾燥が早いため, 不向きです。P. aeruginosaは環境細菌で, 栄養要求性も少ないため, 出来るだけ低栄養培地の高層半流動培地に穿刺し, 乾燥を防いで保存すれば室温でも長期に保存可能です (P. aeruginosaは滅菌蒸留水に浮遊させるだけでも充分保存できます)。

(琉球大学・仲宗根 勇)


【質問者からのお礼】
 緑膿菌の培養条件について詳細にお答えいただき, どうもありがとうございました。貴重なアドバイスを今後の実験に役立てていこうと思います。それでは失礼します。


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