06/07/04
06/07/05
■ 再発を繰り返す偽膜性腸炎
【質問】
 ご多忙中に申し訳ございません。

 90歳, 女性, 脳梗塞。胃瘻による経管栄養中の患者様です。尿路感染症で本年2月入院されユナシンにて加療され, その後, 偽膜性腸炎を発症してバンコマイシン投与で軽快し退院されましたが, 3月末に尿路感染で再入院。ペントシリンで加療後, 偽膜性腸炎を発症。バンコマイシン投与 (1週間) で軽快。その後, 抗生剤使用なしも症状が再燃 (発熱・粘液便・CD陽性)。再度, バンコマイシン投与 (約3週間) し軽快。その後でも再燃したためフラジール投与 (約10日間) で軽快するも1週間で症状再燃・・・・といった症例でございます。

 抗生剤使用なしでも再燃を繰り返しております。本日, 大腸内視鏡検査をしましたところ, 偽膜のみられる典型的な偽膜性腸炎と思われました (生検と培養施行)。担当医に相談を受け, フラジール長期投与を考えましたが, そういった事例はありますでしょうか??? また, 治療法など, ご教示いただければ幸いでございます。

【回答】
 4回の再発 (5回のエピソード) が認められたClostridium difficile関連腸炎症例ですね。再発する症例は, 複数回再発することが多く, 治療が非常に困難です。再発には再燃と再感染があります。再燃はバンコマイシンなどの治療による消化管内のC. difficileの除去が不完全で, 一旦症状が回復するものの, バンコマイシン中止後に再びC. difficileが増殖し再発するものです。一方, 再感染は治療により消化管内のC. difficileが除去されるのですが, また新しくC. difficile菌株を獲得し再度発症するものです。どちらにしても, C. difficileの産生する毒素に対する抗体値が上昇しにくい症例や, 重篤な基礎疾患を持つ症例において再発しやすいと考えられています。

 この症例のそれぞれの再発エピソードが再燃なのか, 再感染なのか不明ですが, どちらにしてもご高齢であり, 脳梗塞, 胃瘻による経管栄養が必要など, 宿主の状態があまりよくないことが推察されます。本症例では, トシル酸スルタミシリン (SBTPC) やペントシリン (PIPC) の使用により, 消化管細菌叢の撹乱が誘発されたと考えられます。一旦消化管細菌叢が撹乱されますと, 再構築されるのに3ヶ月程度かかるといわれていますので, おそらく免疫状態が良好でなく, 高齢で重篤な基礎疾患を持つ本症例において,“抗菌薬の使用がなくても”再発 (再燃にしても, 再感染にしても) が繰り返されているのは理解できるかと思います。

 治療ですが, 海外ではバンコマイシンなどの抗菌薬治療に加えて, Saccharomyces boulardii、毒素と結合するポリマー, さらに免疫学的治療 (イムノグロブリン) などによる治療が試みられていますが, 日本ではまだ利用できません。それでは現実的にどのような治療が可能かと言いますと, バンコマイシンのパルス療法 (pulsed dosing), あるいはテーパリング (tapering) を試みてはどうかと存じます。パルス療法は, 例えば一定期間バンコマイシンを使用した後, ステロイドを切る時のように, 内服と休薬を繰り返す方法です。例えば, 1日内服 (125〜500 mg), 2日間休薬を9サイクル (27日間) 程度繰り返す方法が文献には載っていました。文献は古いのですが, Tedescoらのスケジュールでは, 125 mg/6時間を7日間, 125 mg/12時間を7日間, 125 mg/dayを7日間, 1日おきに125 mg/dayを7日間, 2日おきに125 mg/dayを14日間となっています。バンコマイシンはC. difficileに有効ですが芽胞には効きません。2日間の休薬中に残っていた芽胞が発芽したところを, 続く1日のバンコマイシン内服で除菌することを繰り返すというアイデアです。テーパリングも似たような発想で, 3〜4週間にわたり次第に使用量を減らしていく方法です。

 プロバイオティクスは, Saccharomyces boulardii以外は, いまひとつのデータが出ていないようですが, バンコマイシン使用後に日本で手に入るプロバイオティクスを使用してもいいかもしれません。

〔参考文献〕
(1) Tedesco FJ et al.: Approach to patients with multiple relapses of antibiotic-associated pseudomembranous colitis. Am J Gastroenterol 80 (11): 867〜868, 1985.
(2) 加藤秀章, 他: 再発を繰り返したClostridium difficile 関連下痢症の1 例 _分離菌株のPCR リボタイピングよる検討_. 日消誌 103: 168〜173, 2006.

(国立感染所・加藤 はる)
【質問者からのお礼】
 この度はご多忙中にもかかわりませず, ご回答をいただき誠にありがとうございました。今後の診療に活かして行きたいと思います。
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