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【質問】
同じ菌種において, 莢膜をもつ型と莢膜をもたない型により, 臨床で見られる疾患が異なってきます
(例, インフルエンザ菌)。
(1) これは, 両者間で“感染経路”が異なるのでしょうか???
(2) また継代を繰り返すうち (人工培養環境下において), 莢膜の欠如が見られることがあるのはなぜでしょうか???
菌側の莢膜の役割とこの莢膜の調整を行っているファクターと共にお教えいだきたいです。
【回答】
莢膜をもつ型ともたない型により, 臨床で見られる疾患が異なってくるというご質問ですが,
確かに細菌の莢膜は病原性に関与していると言われています。
(1)これは, 両者間で“感染経路”が異なるのでしょうか???
この質問は例に挙げられたインフルエンザ菌のことと理解してよろしいでしょうか???
インフルエンザ菌の新鮮分離株は本来莢膜をもつとされ, この莢膜多糖体の抗原性により,
a_fまで6種類の血清型に分類されます。ただ多くの菌株では莢膜が失われ, 成人の呼吸器感染などから分離される菌株の多くは型別不能と言われています。これらの血清型の中で,
小児における髄膜炎などの重症感染を起こす菌株は, 莢膜をもつserotype bのインフルエンザ菌がほとんどです。髄膜炎から分離されるインフルエンザ菌の集落は湿潤性で光沢があります(S型)が,
これは莢膜の影響と考えられます。これに対し, 喀痰や咽頭などから分離される菌株の多くは,
髄膜炎由来菌の集落ほど光沢が強くはありません(R型)。両者は“感染経路”が異なるという訳ではなく,
両者共に呼吸器から侵入すると考えられますが, 莢膜をもつ菌株だけが生体の免疫機構をかいくぐり,
髄膜まで到達できるためであると推測されます。これは後の質問の“菌側の莢膜の役割”ということにつながりますが,
莢膜をもつ菌はマクロファージや好中球などの食細胞に貪食されにくく, また貪食を受けても殺菌されにくいため,
生体内で長く生き延びることができると言われています。さらに抗体や補体, リゾチームなどによる殺菌作用にも抵抗するとされます。これらの理由でvirulence
(毒力) が強くなり, ひき起こす病態も重くなると考えられています。
(2) 継代を繰り返すうち(人工培養環境下において),
莢膜の欠如が見られることがあるのはなぜでしょうか???
詳しいメカニズムについてはよくわかりませんが, 実際に様々な菌種において継代培養を繰り返すことによって,
「S→R変異」が観察されます。培地上で培養することによって莢膜は失われますが,
発育は良くなるとも言われています。また一旦莢膜を失くした菌株を動物の組織内に接種すると,
莢膜を形成するようになる現象が認められることもあります。つまり周囲の環境に適応して,
生体内では免疫機構からの攻撃を避けるために莢膜を持ち, 培地上ではより多くの子孫を残すために莢膜を捨てて旺盛に発育するという選択をしていると考えることもできるかと思います。
(公立玉名中央病院・永田 邦昭)
【質問者からのお礼】
大変丁寧なご教授をしていただきありがとうございました。ご活躍をされている先生方から,
このような形で多くのことを学び, 吸収できることを嬉しく思います。一つ学ぶとさらにその奥が知りたくなる,
一つ進むとさらなる疑問が生まれる。楽しみ, 悩みながら学習していきたいと思います。今後ともよろしくお願い申しあげます。
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