■ 細菌と突然変異・病原性 | |
【質問】
独学で細菌学の勉強をしています。特に, 高齢者に頻発する感染症について興味があります。素人考えなのですが, 素朴な疑問があります。 (1) 腸内細菌や口腔内細菌など, 体表に常在化している菌が, “突然変異を起こし病原性を発揮する”ことって考えられるのでしょうか??? (2) 一般的に細菌が, 突然変異を起こしやすい状況や条件, 確率には, なにか学説があるのでしょうか??? (3) 最後に, 初心者向けのわかりやすい臨床細菌学に関する書籍や教科書があったら教えてください。 まだ絶対的な知識が足りないせいもあるのですが, 湧いた疑問に的確な回答を与えてくれる本になかなかめぐり合えません。ご多忙中のことと存じ上げますが, よろしくご教授いただけたら幸いです。 【回答】
細菌の生物学的な特性からは, 病原性遺伝子の移入により病原株が出現する可能性もあります。しかし, これまでは腸内や口腔内の常在菌が突然変異を起こして病原菌となることは一般的ではありません。むしろ, 抗菌剤の長期投与による菌交代現象や菌交代症による病的現象の方がよく知られています。菌交代現象とは, 感染症の治療目的で長期に特定の抗菌剤が投与されると, 投与抗菌剤に感受性の細菌のみが死滅し, 耐性菌のみが生き残ると, 常在菌でのバランスが崩れ, 菌交代現象が見られるようになり, さらには生体に病害を及ぼす菌交代症が起こってきます。通常, 皮膚や粘膜部には固有の細菌叢が形成され, これらのバランスを保ち, 互いが拮抗しているので, 特定の菌がはびこることはありません。 (2) 細菌の突然変異について。確率について。 遺伝子の変化が突然変異につながります。突然変異には自然界で生ずる自然突然変異と, 紫外線や薬剤などにより生ずる誘導突然変異とがあります。突然変異の確率は, 1個の細胞が1回分裂する間 (一世代) に起こる変異の割合で表されます。自然界では100,000〜1,000,000,000個に1個の割合で生じるといわれています。一般的に細菌が変異を起こすのは, 種の生存を脅かす抗菌剤の存在です。抗菌剤の作用 (刺激) を受けると, 変異を起こす確率が高くなります。一般的には薬剤耐性菌が知られています。生物学では, 突然変異は重要な用語ですが, 臨床細菌学の立場からは変異あるいは変異株などの用語が使用されます。変異や突然変異などは, 主として基礎細菌学で見受けられますが, 臨床細菌学の領域ではさほどでもありません。むしろ, ヒトと微生物との関わりについて学習された方が, 臨床微生物についての成果があがると考えます。 臨床細菌学の教科書は多数のものが出版されています。臨床検査学 (臨床細菌学) が各出社から出版されておりますので, 求めて下さい。 (近畿大学・古田 格) |