05/11/04
05/11/07
■ 生菌数の算定について
【質問】
 はじめまして。Google検索でサイトを知り, 勉強させて頂いております。私は生活クラブ生協という生活協同組合で食品検査を担当する部署にいる槌田博をいうものです。元々の専門は残留農薬検査ですが, 検査室では微生物検査も行っており, 部下が作成した検査報告書に署名する立場です。関連した質問が4つあります。どうぞよろしくお願いします。

(1) 生菌数の算定について
 質問箱で公開されているQ&Aに「生菌数の算定について」があります[http://www.jarmam.gr.jp/situmon2/seikinsu-santei.html]。この質問者が書いているように, 食品衛生検査指針微生物編2004の120頁に算出方法が記述されていて, 質問者の例では, 10倍希釈の293と100倍希釈の45を採用して, ii) のルールに則り:

  N= ΣC/(n1+0.1n2)d
   = (293+45)/1.1×10
   = 3072.7
   ≒ 3.1×10^3

となり, 質問者の云うとおりの計算結果で出るように思われます。如何でしょうか?

(2) 関連して
 回答者の日水製薬・小高 秀正先生がお示しくださった「Compendium of Methods for The Microbiological Examination of Foods」 3rd ed. (American Public Health Association) の第4章“Colony Count Methods”にある表1の内容に大変に興味があります。表1の内容を御紹介くださると大変に嬉しいのですが, 解説をつけて御教授いただけないでしょうか??? また, 食品衛生検査指針2004の方法との使い分けについても教えてください。

(3) 本題の質問
 どうして私が (1) と (2) のことに関心をもって調べたいと思っているのかと言いますと, 次のような問題を抱えて, 結果の処理方法を悩んでいるからです。具体的に説明させていただきます。

 一般生菌数を求めるために, とあるサンプルを10倍希釈して1枚, 100倍希釈して1枚作成して培養したところ, 10倍希釈のコロニー数が300以上 (300個を確認したところで計数を中止しました) になり, 100倍希釈のコロニー数が19個となり, いずれも30〜300の範囲に納まりませんでした。このような場合にどのように対処したらよいかについて, 食品衛生検査指針2004には記述がありません。そのためwebで情報検索をしていて, このサイトに辿りつきました。(2) の質問は, その「表1」にこのような場合の対処方法が記述されているのではないかという期待からでした。現在の私が考えられる対応方法は4つあります。

(A) 10倍希釈の結果を採用して,「3,000以上」と報告する。
(B) 100倍希釈の結果を採用して, 「3,000未満」と報告する。
(C) A案とB案の挟まれた結論として,「3,000」と報告する。
(D) 数値を表示することを諦めて,「10^3レベル」と報告する。

 私としては (C) が正解と思っていますが, 違う意見の職員もあり, 合理的な説明をする必要があります。仮に, 真の値が3,000であったとして, +側にも, −側にも同じ確率で測定誤差があると仮定すると, 4つの場合が考えられます。

(case 1) 10倍希釈+誤差 (300以上), 100倍希釈+誤差 (300以上)・・・このケースは, 100倍希釈の結果が採用されて, 報告できます。

(case 2) 10倍希釈+誤差 (300以上), 100倍希釈−誤差 (30未満)・・・このケースが今回の質問になります。

(case 3) 10倍希釈−誤差 (300未満), 100倍希釈+誤差 (30以上)・・・このケースは両方の結果が採用されて, 質問1のように平均操作で結果を報告できます。

(case 4) 10倍希釈−誤差 (300未満), 100倍希釈−誤差 (30未満)・・・このケースは10倍希釈の結果が採用されて, 報告できます。

 場合分けはこれですべてです。25%の確率で出現する (case 2) について, 今後のためにも対応を確実に決めて置く必要があります。10倍希釈2枚, 100倍希釈2枚で操作すれば確率は下がりますが, それでも1/16の確率でこの事象が発生してしまいます。

(4) 培地の大きさについて
 通常の食品検査では, 直径 9 cm (面積 63.6平方cm) のシャーレを使って操作していますが, 今回の検査は検体数が非常に多かったので, 乾式培地であるコンパクトドライ「ニッスイ」TCを使用して操作しました。この培地は, 面積が20平方cmであり, 通常の約3分の1の面積です。そこに同じ量のサンプル1 mlを流し込みます。この時も採用できるコロニーの数は30〜300の範囲としてよいのでしょうか??? 使用説明書の「操作上の留意事項」には,「試料は1プレートあたり300 cfu以下になるように緩衝液などで希釈してから摂取します」とあるので, 30〜300でよいのだとは思いますが, 確認のため教えてください。

(A) 面積が1/3であるから, コロニーの密度を同じにするため, 10〜100の範囲のものを採用する。

(B) 検査結果の数値を有効数字2桁で算出するためには, 統計的に30以上のコロニー数があったほうがよい。培地の面積とは別の理由である。10倍毎の希釈段階を作ることから, 30〜300の範囲とする。

(C) 300以上のコロニーは, コロニー同士が重なってしまう可能性が大きくなる。

(D) 数が多くなると, 計数にも労力がかかりすぎる。500個も数えていられない。

 私は(A)と(B)では, (B) が正解なのだと思っていますが, 先生のご教授をお願いいたします。

 欲張って4点も質問させていただきましたが, いずれも関連して私どもの今回の問題解決の方法をみつけるための質問です。同じ疑問をもたれている方々も多くいらっしゃるのではないかとも思います。是非とも、よろしくお願いいたします。

【回答】
(1) 生菌数の算定について
 食品衛生検査指針微生物編2004の120頁には, 二枚ずつ測定して, 片方が30〜300, 片方が>300, <30の場合の計算方法が示されていないため, 「質問箱」に質問が寄せられました。質問者は10倍希釈で317, 293, 100倍希釈で45, 28でどのように計算したらよいかという内容でした。そこで, 回答者は「Compendium of Methods for The Microbiological Examination of Foods」 3rd ed. (American Public Health Association) の第4章“Colony Count Methods”にある表1の内容を解釈して, 質問者へ回答しました。表1の内容には, 二枚ずつ測定して片方が25〜250に入らなかった時の計算方法が示されています。例えば, 239と328という結果を得た場合は, 平均を計算して280にするということや, 100倍希釈で228, 240, 1000倍希釈で28, 23という時には, すべてを計算して24,000にするということです。ですから, 今回の質問者の計算方法は上記の書物の内容から計算しますと“間違い”です。

(2) 関連して
(1)平板1枚で25〜250の場合: すべて数えて希釈倍率を乗ずる。
(2) 平板2枚の場合: どちらか一方が25〜250の場合は, 2枚の菌数を数え1/2にする。連続した希釈で4枚の場合: 各希釈段階で菌数を測定し, 希釈率を計算した上で平均する。ただし, 高い希釈と低い希釈の菌数の比が2倍以上の場合は, 低い希釈の菌数を計算する (100倍希釈の時, 138, 162、1,000倍希釈で42, 30の場合, 100倍の平均150と1,000倍の平均×10=360で, 両者の比は2.4なる。このような時は, 100倍希釈の菌数から計算する)。

(3) 25〜250のコロニ-が得られなかった場合: 100倍希釈で325, 1,000倍希釈で20の場合は, 250に近いほうのコロニーを数えて報告する。この場合では, “33,000推定”と記載する。

(4) すべての平板で25未満の時: 低い希釈倍率での菌数を測定して報告する。この時も, 数字の後に“推定”と記載する。

(5)まったくコロニーが観察できなかった時: 100倍希釈で0の時, “<100推定”と報告する。

(6)コロニーが密集している時 (250以上の時): もし1 平方cmにコロニーが10未満の場合は, 12平方cm内 (1平方cmを横に6箇所, それに直角の方向に6箇所, 合計12平方cm・・注意事項として, 交差する部分は測定区画をずらし, 2度同じところを測定しないようにする) のコロニーを測定し1平方cm当たりの菌数を算出する。また, 1平方cmにコロニーが10以上の場合は, 代表的な4箇所を測定し1平方cm当たりの菌数を算出する。ガラスのシャーレ (直径 9 cm)の時は, その面積が約64平方cmであるため, 64倍し, またプラスチックのシャーレ (直径 8.5 cm) の時は, 面積が約56平方cmなので, 56倍する。例えば, プラスチック・シャーレで1,000倍希釈での平均菌数が15/平方cmの場合は, 56倍して840となり, “840,000 (推定)”とする。もし, 1平方cmに100以上のコロニーが確認されたら, プラスチック・シャーレの場合, 一番高い希釈率のコロニー数を5,600倍して報告する。その場合, TNTC (多くて測定不能) という報告はしない。

(7) 拡散コロニーがあった場合: 拡散コロニーがシャーレの1/2以下の場合は測定可能な区画を測定して計算する。拡散コロニーのため測定不能の場合は, “拡散”と記載する。抑制物質などが入っている検体で, 希釈をするとその抑制効果が弱まる時があり, 高希釈度での計測数が逆に多く出る場合があるが, その時は“LA”と記載する。

食品衛生検査指針2004の方法は, 日本の食品衛生法に基づいて書かれています。「Compendium of Methods for The Microbiological Examination of Foods」 3rd ed. (American Public Health Association) は米国のものです。使い分けは, 諸外国のものは参考にとどめ, 日本国内では食品衛生法や検査指針を基準に考えるのが妥当だと思います。

(3) 本題の質問
 (2)の回答部分の (3)が該当します。300以上でも測定が必要でした。仮に, それが1,000あり, 100倍希釈で19であれば, 300に近い方, すなわち19の方を用いて計算し, 100倍希釈ですから1,900 (推定) と報告します。

(4) 培地の大きさについて
 コンパクトドライ「ニッスイ」TCを使用していただきまして, 有難うございます。私たちのチームで開発し, 生食肉を対象としてAOACの認証を受けました。AOACは方法をバリデーションする機関で, 共同実験データが元になっています。現在, 一般的に行われている生菌数測定法はあまり広く知られていませんが, このAOAC法です。回答者らは, 標準の培地とコンパクトドライを比較して, 両方法による結果に大きな差を認めませんでした。この時の測定範囲は, 米国の測定法に従い, 25_250の範囲で測定しました。質問では, コロニー数の範囲を30〜300でよいか・・すなわち従来のシャーレと同等に数えてよいかという質問ですが, 答えは「OK」です。参考として, 日本の食品衛生法 (乳等省令, 氷雪の細菌数測定) では30〜300を測定するとなっていますが, 日本国内での裏づけデータは見当たりません。米国で広く採用されている菌数の範囲, 25〜250の裏づけは,〔J. Food Protection 43: 282〜286, 1980]に記載されています。また, ISO4833, 7218には300以下のプレートの菌数を測定すると記載があります。

(日水製薬・小高 秀正)


【質問者からのお礼】
 生菌数の算定についての質問に丁寧なご回答をいただきありがとうございました。特に, 米国のコロニーの数え方は, できるだけ結果を出した上で推定であるときにはキチンと断りを入れるという西洋的な合理主義があってよいですね。国内基準との使い分けに気を付けながら参考にさせていただきます。これからも宜しくお願いいたします。


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