06/01/23
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■ 赤痢菌と大腸菌の鑑別
【質問】
 はじめまして。保健所で細菌検査を担当しております。

 先日, 赤痢菌の疑いの菌株の精査を行いました。性状は赤痢のようでPCRではIpaHおよびinvEが陽性でした。抗血清で2つの多価血清に凝集が認められましたが, 単味血清で凝集がありませんでした (加熱菌で判定)。大腸菌の抗血清には反応しませんでした。県の衛生研究所にて精査をしてもらったところ, 型別不能の赤痢と判断されました。

 組織侵入性大腸菌との鑑別がポイントとなりますが, 何か培地などで簡単に判断できないでしょうか。例えば, クロモカルトコリフォーム寒天では今回の赤痢菌は集落を作らないか, 作っても大腸菌のような紫色の集落にならず, 白色のコロニーでした。保管しているinvE陽性の大腸菌ではコリフォーム培地で紫色になりました。組織侵入性大腸菌だと必ずコリフォーム培地で紫色になるのかなどの, 治験がありましたら教えて欲しいのですが。どうぞ宜しくお願いいたします。

【回答】
 非常に難しい問題だと思います。しかし2類感染症である赤痢菌と大腸菌の鑑別は極めて重要であり,多くの人が頭を抱えている問題だと思います。保健所に勤務されていますから,当然ご存知とは思いますが,現在赤痢菌と誤同定されてしまうinactive Escherichia coli などの存在が問題となっており,それらの大腸菌の中には赤痢菌の抗血清に凝集するものも認められるため,一般の病院や検査所では対応できなくなってきています。今回ご質問の菌株は,逆に赤痢菌なのに抗血清に凝集しない菌株ということで,検査する側にとっては,何を鑑別のよりどころにしてよいのか,わからなくなってしまいます。

 ご質問のクロモカルトコリフォーム寒天は,大腸菌群に特異的なβ-D-ガラクトシダーゼによって淡紅色_赤色に,大腸菌に特異的なβ-D-グルクロニダーゼによって青色に発色する培地であり,大腸菌O157のようにβ-D-グルクロニダーゼ陰性菌を除く多くの大腸菌は紫色になりますので,紫色の集落形成が組織侵入性大腸菌に特異的な性状ではありませんが,赤痢菌と大腸菌とを鑑別するための一つの指標にはなる筈と考えられます。症例数が少なく決め手になる性状が見つけにくい状況ですが,今年1月28_29日に横浜で開催される日本臨床微生物学会総会でも赤痢菌の誤同定に関する発表が数題予定されており,キシロース分解性の確認,酢酸塩添加シモンズのクエン酸培地の使用などの鑑別試験が抄録に掲載されていますが,ただ一つの性状だけで決定するのは危険であり,複数の試験結果を見て総合的に判断することが必要だといわれています。クロモカルトコリフォーム寒天のような発色基質を用いた培地における発育性も貴重な鑑別性状と考えられますので,是非, 学会などで発表して,このような赤痢菌の存在を多くの人に伝えていっていただきたいと思います。

 元来, 赤痢菌と大腸菌は類縁関係にあり,遺伝子学的にも鑑別ができ難いとされています。最終的な確認には今回実施されたようなinvEやipaHなどの遺伝子検査が不可欠な状況ですので,疑わしい菌が検出された場合には,所轄の保健所や衛生研究所などに確認をお願いしているのが現状だと思います。それらの菌が持ち込まれる保健所の方が相談窓口となって,地域のネットワークを構築していただければ,一般病院に働くものとしては心強いのですが。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


【質問者からのお礼】
 回答ありがとうございます。日本臨床微生物学会に同僚が参加する予定ですので, 別の鑑別方法の演題を聴いてきてもらうつもりです。複数の鑑別方法で判断していきたいと思います。

【読者からの意見】
 質問箱を拝見しました。クロモカルトコリフォーム寒天で大腸菌が紫色の集落を形成するのは周知のことですが, Shigella sonneiはβ-D-galactosidaseとβ-D-glucuronidaseを保有するため, 多くは同培地上, 培養1〜2日で大腸菌様の紫色の集落を形成します。詳細は1月28〜29日の臨床微生物学会のポスター (P-067) にて報告します。


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