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【質問】
はじめまして。私は海洋細菌と宿主レセプターの関係を研究しています。魚病の一つであるビブリオ病の原因菌として知られているVibrio
harveyi, Vibrio anguilluram, Vibrio trachuriを電子顕微鏡で観察したのですが,
線毛がはっきりと観察されません。電顕前の固定, 染色法にも問題があるかもしれませんが,
まず線毛を確実に発現する培養条件を探しています。
ビブリオだけでなく, その他の菌で線毛を発現する培養条件がありましたら参考までに教えていただきたいと思っています。また,
それに関する参考文献がありましたら紹介していただきたいと思っています。よろしくお願いします。
【回答】
ご質問の「線毛を確実に発現する培養条件」について端的にお答えすれば,「よくわかりません」ということです。ただ,
菌体付属器官である「線毛」や「鞭毛」は, 一般的には“対数増殖期”に“液体培地”で最も旺盛に形成が行われるとされており,
ご質問の菌種についても例外ではないと考えられます。一般にビブリオ属は, そのgeneration
time (世代時間) が極めて短いことが知られていますので, 対数増殖期のところの菌体を材料に用いるのが賢明なのではないでしょうか。また大腸菌の例で,
ビブリオ属ではありませんが, 少々お付き合い下さい。腎盂腎炎由来の大腸菌が有するP線毛の一つPap線毛
(Pyelonephritis-associated pilus) の遺伝子群の解析によれば, 温度による転写の調節が行われており,
37℃の体内では線毛が生じているが, 粘膜上皮が剥離して体外に排出されると,
通常は温度が下がり線毛が作られなくなることが知られています(臨床材料から分離された菌は多くの線毛をもつ)。またグルコースの存在下でもPap線毛は発現しないことが明らかにされています。大腸菌には,
このPap線毛以外にもMS線毛, P線毛, M線毛など, 数多くの種類の線毛が知られていますし,
無線毛の株もあります。そしてこの無線毛の株は, 血中に侵入して菌血症を惹起することが実験的にも証明されています。どうも線毛の存在は血液中に侵入しにくいか,
血液中に侵入しても生存しにくいのではと推察されています。そしてこれらの線毛の発現には,
遺伝学的に実に巧妙な制御がされているのです。以上は大腸菌についてのことですが,
ビブリオ属についても線毛については種々の解析がされているのでしょうか??? 回答者の私はビブリオ属の線毛については詳しくないので存じませんが,
いろいろとあるのかも知れませんね。でも冒頭で記載しました“対数増殖期”の発育菌体を用いるのが最大のコツなのかも知れません。ご期待に添えない回答かも知れませんが,
ご容赦下さい。
【質問者からのお礼】
お忙しい中, 漠然とした質問の回答に尽力いただき大変感謝いたします。本菌とレセプターの接着実験で,
検討の結果, 対数増殖期の中期から後期 (液体培養) にあわせています。今回の回答に一致するところがあると思います。しかし,
電子顕微鏡観察で用いる本菌は, 培養時間は同じですが, 斜面や平板培地から得た菌を用いていました。これを参考に検討していきます。
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