06/02/07
■ 選択培地と非選択培地
【質問】
 食品会社の微生物検査担当をしています。食品検査用培地を色々調べていたのですが,「選択性がある培地と選択性が無い培地」の根本的な意味がよく分かりません。

例えば, メルク社製のクロモカルトコリフォーム寒天培地はどうなんでしょうか??? 大腸菌群が持つ特異的な酵素, β-D-ガラクトシダーゼとE. coliの持つβ-Dグルクロニダーゼが発色基質を分解し, コロニーの色の違いで大腸菌群とE. coliを同時に検出できるということですが, ただ同時に検出できるということだけで, この培地には「選択性がない」ということになるのでしょうか??? お忙しいところ申し訳ありませんが, 教えてください。

【回答】
 厳密な意味で「選択培地」と「非選択培地」を定義することはできないと考えられます。選択培地は, 一義的には特定の菌種, 菌群のみを発育させ, それ以外の発育を許さない培地ですが, それも程度問題で, 決して“all or nothing”ではありません。従って, 目的とする細菌が“発育し易く”, その他の細菌の発育が“抑えられる”ような組成をもつ培地と表現されているのです。しかし, “発育し易く”とか, “抑えられる (発育しにくい)”といった表現では, 厳密に考えれば“すべての培地は選択培地である”ともいえます・・・サブロー・ブドウ糖寒天培地には, 酸性のpHと高いブドウ糖濃度から, 真菌のみが発育すると言われますが, 一部のグラム陰性桿菌も発育してきます。血液寒天培地は万能培地 (非選択培地) のように言われますが, 血液寒天培地に発育しない細菌もあります。選択性あるいは選択性能は連続的であると理解するのが正しいでしょう。

 また, 質問のなかにあるクロモカルトコリフォーム寒天培地は選択培地 (菌発育の有無という意味) というより, むしろ識別培地 (発育してきた菌集落を相互に識別する) とでも表現するのが正しいと考えます。いろいろ工夫を凝らした培地が開発されていますので, 使用説明書に使われている言葉 (表現) よりも, むしろ性能を正確に理解することが肝要だと感じています。

(琉球大学・山根 誠久)

【質問者からのお礼】
 こんにちは。ご回答いただき, 有難うございました。確かに培地使用説明書の表現にこだわりすぎていたように思います。培地性能の全体を理解して, 今後に役立てていきたいと思います。有難うございました。


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